メンズウェアの歴史や伝統、あるいは確かな技術。それらに敬意を払いながら、自らの哲学を投影したものづくりを続ける一流のウーマンクリエイターに注目してみた。
紹介するアイテムはどれもベーシックなものばかり。しかしそこには、女性が思う「理想の男性像」を紐解くヒントがたくさん詰まっていた。
「できる限り時代に流されない服を」
AGNÈS B. アニエスベー
「若い頃はよくスウェットシャツを着ていました。ある夏の日、カーディガンのように前が開いたらいいなと思ったんです。それがこの“カーディガンプレッション”誕生のきっかけです」。
アニエスベーさんはこう回想する。1979年に登場した写真のカーディガンプレッションは、まさにアニエスベーというブランドを象徴するアイテムだ。神父が着るキャソックのような、狭い間隔で並んだフロントのスナップボタン。
当初、コットンの裏起毛、つまりスポーティなスウェット素材が用いられていたが、その後さまざまなバリエーションが登場。冬にはレザー、夏には薄手コットンや半袖なども展開。
「トレンドは知らないし、追いません。ほかのデザイナーたちがつくる服を見ることもありません。できる限り時代に流されない日常着をデザインするのが好きなのです。実際私は30年前、20年前、10年前にデザインした服に、今の服を組み合わせて着ています」。
この類いまれかつ偉大なデザイナーの服に対する考え方に、僕らは大きく共鳴する。何でもない(ように見える)スウェットやデニム、スニーカーが大好きだし、それを着ているときがいちばん自分らしいように思えるからだ。
さて今季の立ち上がりにアニエスベーが掲げるテーマは「ニュー・スタンダード・シック」。カーディガンプレッションやジーンズといった定番アイテムに、今の服をコーディネイトする。そこには「大切なものを長く愛用してほしい」と願うアニエスベーさんの想いが込められている。
| デザイナー アニエスベーさん フランス生まれ。モード雑誌「エル」の編集者を経て1975年にアニエスベーを設立。ブランド名は編集者時代の記事の署名に由来する。日本への初出店は’84年。デビュー以来40年以上にわたり第一線で活躍する。 ©kate Barry |
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