夢に疑いはない。でも評価されず、行き詰まった
実は、スポーツに夢中であったのと同時に、彼が夢中だったのが本。どんなに練習でくたくたでも書店に寄り、面白そうな本を探すのが日課だったという。
「ここではないどこか」に憧れていた少年の心を捉えたのは、椎名誠の冒険小説や沢木耕太郎の『深夜特急』、辻仁成の芥川賞受賞作『海峡の光』に感動したのもこの頃。
修学旅行先での写真との出合い以降は、ロバート・キャパや一ノ瀬泰造、沢田教一といった報道写真家、主に戦場を被写体とした写真家たちに惹かれ、彼らに関係する本を読み漁った。
「だから、ラグビーを辞めたとき、彼らのような写真家になって世界を旅しようという夢が当たり前のように浮かんできたんです。同級生には『将来はカメラマンになる』と言い切ってました(笑)」。
とはいえ、カメラマンになることも、ラグビー選手になるのと同じくらい、簡単なことではない。
ラグビー選手という夢に対しては綿密な計画を立てた岡田少年だったが、カメラマンになることについては、あまり具体的な計画がなかった。とりあえず、父親から譲り受けた一眼レフを持って旅に行き、写真を撮り始めたのだが、友達から「全然撮ってねーじゃん!」とからかわれるほど撮った写真は少なかった。
「どうしていいか分からなかったんですよね。でも、自分がカメラマンになるということに疑いはなかった」。
それで大学卒業後、アルバイトで貯めた100万円を軍資金に写真専門学校に入学した。が、やはり何も拓けない。なんとかなるという根拠のない信念は、入学半年で限界を迎える。
「夏休みの課題を発表していたとき、先生に『君は写真より話のほうが面白いね』と言われたんです。それで初めて『ヤバイ、カメラマンになれないかも』と思いました」
同じ頃にお金も乏しくなり、ある日財布もカラ、銀行口座もゼロという現実を突きつけられる。さらには失恋もするという、何もかもデッドエンドなある秋の朝、電話が鳴った。旅先で知り合ったカメラマンだった。
「明日ヒマ? 知り合いのカメラマンが体力のあるアシスタントを探してるんだけど」。やります、と即答した。
>
後編に続く
岡田裕介(おかだゆうすけ)●1978年埼玉県生まれ。大学卒業後、フォトグラファー・山本光男氏に師事。2003年にフリーランスフォトグラファーとして独立。水中でバハマやハワイのイルカ、トンガのザトウクジラ、フロリダのマナティなどの大型海洋ほ乳類を、陸上で北極海のシロクマ、フォークランド諸島のペンギンなど海辺の生物をテーマに活動している。温泉に入るニホンザルの写真はアメリカ・スミソニアン自然博物館に展示されている。また、辻仁成・GLAY・MIYAVIなどミュージシャンのライブ撮影も手掛けている。2019年に写真集『Penguin Being-今日もペンギン-』(玄光社)。2020年9月にクジラとイルカをテーマにした写真集『これが君の声 青の歌』を刊行予定。
http://yusukeokada.com/岡田裕介写真展『これが君の声 青の歌』
2020年9月22日(火)~27日(日)恵比寿 弘重ギャラリー
2020年9月29日(火)~10月 11日(日)京都写真美術館
「37.5歳の人生スナップ」
もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
上に戻る 取材・文=川瀬佐千子 写真=田辺佳子 取材協力:
surfers、
石垣島ダイビングセンターMOSS DIVERS