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今春、ハワイに移住。父との思い出の地をいつか娘と歩きたい

平は今春、妻と1歳半の愛娘を連れ、家族で念願のハワイ移住を果たした。仕事の拠点もアメリカを中心とする海外に置いた。
「’17年の秋、海外の小さなインディペンデント映画のオーディションを受けたんです。そのとき、『演じることが楽しい』と初めて思った。共演者と台本の読み合わせをしただけだったのに、僕のセリフで彼女の気持ちが変わり、彼女のセリフで僕の気持ちが変わっていくのが手に取るようにわかったんです。オーディションなのに、すごく感情が入って」。
日本の撮影現場ではこれまで、俳優同士、どこか遠慮のようなものを感じることが多かったという。だからこそ、そのとき体験した真剣勝負のぶつかり合いと映画に対する凄まじいエネルギーに、胸が熱くなった。
「俳優として当たり前のことを当たり前にやれる環境がある、と知ったんです。自分がこれからやりたいのはこっちだ、と直感しました」。
ジャケット参考価格/ダンヒル 03-4335-1755
それまで所属していた事務所を辞め、アメリカの大手エージェントと契約。試行錯誤の末にビザを取得し、ハワイでの住まいも自ら動いて見つけた。知らない世界に果敢に足を踏み入れ、壁を次々と乗り越えていく。その過程を話す口ぶりは軽やかで、重ねた苦労より、幸福感と充実感に溢れている。
「次の仕事を手にするため、しばらくオーディション生活になります。けれど、それも苦痛じゃなく、楽しみ。日本の芸能界を離れ、新しいこと、何か面白いことができそうだなという予感があります」。
そのパワーの源は、やはり家族との暮らしだ。娘の話になると、骨太な男の顔がさらに柔らかく崩れる。
「実は1歳になる頃までは、僕は完全に娘に無視されていて(笑)。抱っこしても泣かれるし。でも最近、やっと僕のことを認識してくれて、『パパ』って呼んでくれるんです。撮影で離れているときも、LINEの着信音が鳴ると『パパ!』って言うらしいです。やっぱりうれしいです」。
そもそもハワイには、特別な感慨を抱いている。それは、亡き父・平幹二朗さんとの思い出の地だから。
「7、8歳くらいの頃、朝、父とアラモアナの公園を散歩した記憶が鮮明にあるんです。いつか、娘と同じ場所を一緒に歩いてみたいです」。
男として、父として、強さと包容力を増していく。希望に満ちたその背中は、見ているだけで何だかこっちまでワクワクさせられるのだ。
平 岳大●1974年、東京都生まれ。15歳で渡米し、ブラウン大学理学部卒業。2002年、舞台「鹿鳴館」でデビュー。以降、イギリスで上演された蜷川幸雄演出の舞台「ハムレット」、映画『関ヶ原』など多数の作品に出演する。’19年から拠点を海外に移し、BBC/Netflix共同制作ドラマ「GIRI/HAJI」で主演を飾った。映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』が近日公開予定。
阿部裕介(YARD)=写真 喜多尾祥之=スタイリング 矢口憲一=ヘアメイク いなもあきこ=文


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