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音も人も垣根を超える「サマーステージ」に受けた衝撃

幻の第0回を生み出すほど「無料」であることに亀田さんがこだわった背景には2つの理由があった。
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ひとつはニューヨークで目にした羨望の光景。もうひとつは日本の音楽シーンの現状である。
前者の羨望の光景とは、ニューヨークのセントラルパークを中心に6月初旬から9月いっぱいまで開催される「サマーステージ」のこと。

催されるイベントはほとんどが無料で、あらゆるジャンルの音楽が毎日のように奏でられる。ステージに立つのはデビューしたてのロックバンドや、クラシックのバイオリニスト、ソウルクイーンなど千差万別であるところが面白いという。
ささまざまな音楽と人が集まるNYの「サマーステージ」に嫉妬した。 ※写真提供:日比谷音楽祭実行委員会
近年は毎年のようにニューヨークを訪れ、現地で1カ月ほど滞在している亀田さんは、「サマーステージ」を実際に体感し、音楽の楽しさを再確認。多ジャンルな音楽に気軽に触れられる日常生活があることにジェラシーを抱いた。

「僕が見たのはメイヴィス・ステイプルズでした。80歳を数えるR&Bとゴスペルの大御所です。過去にはマライア・キャリーやエルヴィス・コステロも出演していたと聞きます。このジャンルの広さ、世代の広さ、それをフリーイベントとしてニューヨークの中心にあるセントラルパークでひと夏中楽しめる。
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観にくるお客さんも子供から老夫婦までと幅広く、ジョギング中に寄ってみたり、家族がピクニック気分で訪れたりと敷居が低い。さらに人種も多様です。音も人もあらゆる境を越える、楽しく交わるのがサマーステージ。ニューヨークの、アメリカの音楽の底力を見た気がしましたね。向こうの音楽は文化であり生活の一部。今、僕が日本で見ている光景とはまったく違う。これを日本で、東京でやりたい。素直にそう思いました」。
2019年の日比谷音楽祭でも、人と音楽が境なく交わるさまざまなイベントが実施された。 ※写真提供:日比谷音楽祭実行委員会
ニューヨークへ通い出したきっかけ。それは50代に入った頃に強く感じた日本の音楽業界に対する違和感であり閉塞感だった。

音楽作品に加え、コンサートやフェスに関しても、ある特定の音楽が特定のファンに向けて売られている。ターゲットを絞ることによって、音楽が多くの人へ届くという前提で誰もが模索している。そう感じ、「音楽とは、もっとすべての人に等しく届いて、もっと世代を超えて愛されるものではないか」と、感じていた。

その考えが正しいと背中を押してくれたのがサマーステージであり、だから日比谷公園サイドから実行委員長の話が届いたときには、「天命」だと感じた。

後編へ続く。


亀田誠治(かめだせいじ)●1964年生まれ 音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、山本彩、石川さゆりなど数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手掛ける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成(’12年に解散、’20年に再生を発表)。2005年よりap bank fes にbank band のベーシストとして参加。2007年第49回、2015年第57回日本レコード大賞、編曲賞を受賞。NHK Eテレにてシリーズ放送された音楽教養番組『亀田音楽専門学校』などを通じて次世代へ音楽を伝えている。
2019年にフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務め、10万人を動員。



「37.5歳の人生スナップ」とは……
もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
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小山内隆=取材・文

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