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字を書くことも走ることも筋肉をうまく使う「スキル」がものを言う

走るときのフォームはどうでしょうか? 「脚を引き上げて下ろす」「腕を後ろに引いたら前へ素早く戻す」。……字を書く動作と比較して、随分と複雑な動きに感じます。しかし、走るために体を動かしているのは、字を書いているときと同じ筋肉です。
確かに字を書くときよりも、走るときのほうが大きな筋肉をダイナミックに使っていますが、「全体のバランスを整え、リズムをもって動かす」という点では、共通しています。
実はランニングフォームも一種のスキルであり、“巧みさ”の表れなのです。ということは、キレイなランニングフォームを覚えるためには「ゴールデンエイジ」における繰り返しの練習が必要、という点も共通していると言えます。
私たちの脳には「フィードバック」と呼ばれる機能が備わっています。これは、今行動している動きが正しいのか、それとも間違っているのかを判断・確認することにより、その後の悪い動きを良い動きに修正していくものです。
人間が成長して体の各部のサイズが変わったり、一度覚えた動きを長い年月を経ても変わらずに繰り返せるのも、この画期的な機能のおかげです。この「フィードバック」をより高度に上達させるために、良い動きを真似した反復練習を行うのです。
ただし、ランニングフォームは自分で自分の動きをその場で見ながら即座に修正するという「フィードバック」を行うことはできません。他人から情報をもらわないと「フィードバック」できないことになります。これが、親や先生、コーチの役割になるです。
「自分の動きがお手本の動きに近づいている」ということを確認する手段こそ違いますが、「キレイな字の習得」と「キレイなランニングフォームの習得」は我々の脳に備わった同じ機能を駆使している点もまた、共通しています。
子供時代に練習をサボってしまい、トレーニングを積まなかった「字」は、大人になってから書く量やスピードが増えるに従って、修正がますます難しくなります。「ゴールデンエイジ」に獲得した「キレイな動き」は、成長に伴って力強さが加わり、より実践的な「能力」となっていくのです。
外で子供を思い切り遊ばせるのにも、非常に気を使わなければいけない状況ですが、スキルを養う運動という視点で考えれば、外へ出なくてもできることが意外とあるものです。もちろんスポーツに限らず、字を書くこと、絵を描くこと、楽器を弾くこと……なんでもいいと思います。
子供たちの持つさまざまな可能性に目を向けるチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。
「子供のスポーツ新常識」
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。上に戻る
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桜井智野風=文
桐蔭横浜大学 教授。同大大学院スポーツ科学研究科長。運動生理学 博士。骨格筋をターゲットとしたスポーツ科学・生理学的な研究を専門とする。公益財団法人 日本陸上競技連盟 指導者育成委員会コミッティーディレクター。スポーツの強化策としては、「ジュニア世代と接する理解ある指導者や親を育てることが一番重要である」という考えのもと、ジュニア対象の指導者育成のために全国を飛び回っている。


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