書いた本人とは思えないほど、いたずらに嬉々として述懐する様子は、我々がテレビでよく目にする東野幸治像そのものだが、本書の中では西川きよし、坂田利夫、宮川大助・花子といった師匠クラスについてもつづられている。
「レジェンド芸人から、品川やキンコン西野といったちょっと嫌われているというか生意気な芸人、いまいち売れていない芸人まで、登場する芸人に法則性がまったくない。こればっかりはほんまに、自分が興味のある人を書いたんだなと思います」。
東野幸治はどんな視点で芸人や物事を見ているのか──。
「マイナー芸人」を取り上げた理由
「僕はネガティブなマイナーな思想なんで、ど真ん中よりもちょっとそれたところを歩いているような人が気になってしまう。このコラムはスマホで書いていたんですけど、そういう芸人さんは自然と親指が躍る感覚でした。もし第7世代を書くとしても、親指が躍らない……それこそEXITを書くなら結成に至るまでの話のほうが興味があるんですよね。今さらそんなことを書かれてもいやでしょうけど(笑)」。
ゴシップ好きとしても知られる東野だが、登場する芸人に対する客観的視線はまるでルポライターのような鋭さを持っている。先の天津木村しかり、「〇〇でした」「〇〇ました」と淡々と事実を伝える構文は、現実を突きつけてくるようで真に迫るものを感じるほど。
「お笑い芸人のドキュメンタリー番組のナレーションできますね。『家に帰ったら嫁が実家に帰ってました』、『泣いてました』とかね」。そうケタケタと笑う。
「結果的に距離を空けて、客観視で書いたほうがやりやすかったんですかね。僕は文章に関しては素人やから狙ってそうしたわけではなく、自分が思うままに書いただけなんです」。
ひるがえってその距離感が、時折、「東野幸治は心がない」と揶揄されているのかもしれない。だが、その客観的視線は、自身の若手時代の様子を交えながらダウンタウンの台頭をつづった「ほんこん」や「リットン調査団」、銀座7丁目劇場の若手抗争をつづった「品川祐」「ダイノジ大谷」などでは、お笑い史のストーリーテラーという形で発揮されているから面白い。銀座7丁目劇場の裏で、ひそかに遂行されていた「ハローバイバイ、スター化計画」などは、お笑いファンにとって目からウロコどころの話ではない。事件である。
ちなみに、ダウンタウンについて直接ページを割こうとは思わなかったのだろうか?
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