天才ゆえに離れていったチームメイト
ことは順風満帆に進んでいるように思える。しかし、清水さんはレブロンが少しずつ“ほつれ”を生んでいく元凶となってしまったと振り返る。
「レブロンは、キャバリアーズが初優勝したNBAファイナルで、得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックのすべてで両チームトップの数字を記録しました。これはファイナル史上初のことです」。
これだけ聞くと「さすがはキング、正真正銘のスーパースターだ」と感じるかもしれない。しかし、ことはそう単純ではない。
「これはすべての団体競技で史上初だと思うけど、レブロンは全ポジションでチームのNo.1になってしまったんです。それは究極のアスリートなので素晴らしいことは間違いないけれど、そのうえに絶対的な権力まで持っている。そうなるとチームメイトは……面白くないと思いますよね? 全部自分でやってしまって、周囲は彼から信用されていないのではと不信感を抱くようになっていきました」。
これは実際の社会でも起こりうることだろう。自分が誰よりも仕事ができる、成績がいい、または社内で圧倒的に仕事ができる上司がいる。心当たりがある人もいるのではないだろうか。
「自分でやったほうがクオリティが高い」「自分でやったほうが早い」という考えから、同僚や部下から仕事を取り上げてしまってはいないだろうか。
「レブロンは偉大であるがゆえに、一部から畏怖されていたはずです。もしかすると、2018年のNBAファイナル第1戦で起きたJ・R・スミスの“世紀の凡ミス”には、レブロンからの異常なまでのプレッシャーがあったのかもしれません」。
清水さんが例に挙げた“世紀の凡ミス”は、これだ。
同点で迎えた試合終了間際、ボールを受けたJ・R・スミスはなぜかゴールに向かわず、真逆の方向にボールを運んでしまった。これを受けレブロンは激昂。すぐにJ・R・スミスは我を取り戻したが時すでに遅し。勝てたかもしれない試合で延長戦に突入し、キャバリアーズは最終的に敗戦した。
この事件が尾を引いたキャバリアーズは、結果、ファイナルで1勝もできずに準優勝に終わった。怒りを抑えきれなかったレブロンは、ロッカールームでホワイトボードを殴り、手を負傷。それを見ていたチームメイトたちはどう思っただろう。余計にレブロンを怖れるようになったのではないか。
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