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エビデンスにこだわると二番煎じしかできない

企画の提案者にとっては「エビデンスは未だ発見できていないが、自分のアイデアを市場にぶつけたいから、実験をさせてくれ」という思いが上司に通用しないのであれば、もうお手上げです。
その会社がiPhoneを作ることはないでしょう。どこかの企業がiPhoneを作ったのを見てから、二番煎じ、三番煎じとして、後追いで類似品を作るしかありません。もちろん利益を得るのは先行者です。
研究開発費をかけずに、二番煎じ戦略で行くというのならば話は別ですが、その戦略が取れるのは後発でも力づくでシェアを取りに行けるパワーのある会社だけです。そんな会社はどれだけあるでしょうか。

「エビデンス」など、やってみればすぐ手に入る

やってみなければわからないことはいくらでもあるのです。元マッキンゼーでDeNA創業者の南場智子さんは著書『不格好経営』で、「不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝ることも身をもって学んだ」と述べています。
「コンサルタントは情報を求める。(中略)が、事業をする立場になって痛感したのは、実際に行動する前に集めた情報など、たかが知れているということだ。本当に重要な情報は、当事者となって初めて手に入る。(中略)それでタイミングを逃してしまったら本末転倒、大罪だ。」(同書)
と、まさにエビデンスを求め過ぎる愚を指摘しています。

裁判官は「正しいかどうか判断する」、経営者は「正しくなるように実行する」

では、エビデンスがない企画に対して、経営幹部の一員として上司はどのようなことが必要なのでしょうか。それは、裁判官のように「正しい企画なのかどうか」ばかりを判断しようとする態度ではなく、企画者の能力が信じられるのであれば、その人が熱意を持って本気で提案してきた企画なら覚悟を持って決裁する決断力でしょう。
そして、「正しい企画なのかどうか」(そんなことはやらねば永遠に分かりません)ではなく「選んだ企画を正しいものとする」ことに全力を尽くすことではないでしょうか。これこそが、アイデアと熱意のある若手とその上司との理想の関係ではないかと思うのです。

エビデンスを求め過ぎる上司は言い訳を探している

若手メンバーから見れば、どんな企画に対してもエビデンスを求め過ぎる上司は、「必ず正しいことしかしたくない」「リスクを取りたくない」「失敗したときの言い訳がほしい」としか見えないことでしょう。要は、自分の保身ばかり考えている人ということです。
ファクトとロジックが大事なのは百も承知ですが、部下にそのことを指導しているようでいて、無意識のうちに自分の中に上述のような保身がないか胸に手を当てて考えてみると良いと思います。
そして、稲盛和夫さんではありませんが「動機善なりや、私心なかりしか」と問いかけてみてはどうでしょうか。
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
 
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組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。上に戻る
石井あかね=イラスト


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