時代を見抜き、行動を起こす俊敏さの例は枚挙にいとまがないが、中でも特筆すべきは慈善活動である。まだ今ほど「CSR(=Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」や「SDGs(=Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が声高にうたわれていなかった時代から、アルマーニは、エイズ対策支援をはじめ、医療・教育機関への支援を中心に、多岐にわたる慈善活動を精力的に行ってきた。 東日本大震災の直後にも、日本に捧げるプリヴェ・コレクション(オートクチュールのコレクション)をいち早く発表し、日本を力強く励ました。震災孤児への経済的支援も行った。そんなスマートな慈善の流儀が、彼を尊敬に値する大物へと押し上げてもいる。「BMI(=Body Mass Index:肥満度を表す体格指数)が18以下のモデルは使わない」という決定をいち早く下したのもアルマーニである。 絶望に立ち向かって運命を切り開き、数々のアイデアで人々に影響を与えてきたアルマーニ。2019年5月に来日した際、東京国立博物館表慶館でのショーの前日には、記者会見を行った。「プライベートライフは、ない。お楽しみは、ごく少しだけ」「1つだけ願いがかなうなら、不死身になりたい」と語り、アルマーニが仕事人間であることを改めて納得したのだが、何よりも私が心打たれたのは、アルマーニの態度そのものであった。 記者たちの多様な質問に対して、およそ60分の会見の間、当時84歳のアルマーニは、美しい姿勢を保って立ったまま、丁寧に話し続けたのである。若いスタッフたちが疲れて座り始めたというのに。驚異の体力というよりもむしろ、美意識の高さと意志の強さ、そして記者たちへの敬意とサービス精神が伝わってきた。