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「上司」は軒並み「言葉にする力」が弱い理由

今、上司という役割になっている人は、評価をされ昇進をしてここまで来たわけですから、過去にはその担当業務においてスーパープレーヤー=プロであった人が多いことでしょう。しかし、だからこそ「名選手必ずしも名監督ならず」の言葉どおり、教えることが上手い人はなかなかいません。
例えば、アンケート調査を作成するとして、その質問項目をどんな手順で作っていくのか、自分はサラっとできたとしても、説明できる人は多くはありません。なぜ、その質問文にしたのか、その質問数でよいのか、領域は必要十分なのか、記述式なのか選択式なのか、選択肢の数や記述枠の大きさはそれでいいのか、等々、決定しなくてはいけないことは山ほどありますが、答えることができる人はどれだけいるでしょうか。

多くの上司が「言っていること」と「やっていること」が違う

それで、結果として、部下の皆さんがいつも嘆いているように、世の中の上司は「言っていること」と「やっていること」が違うわけです。
「上司が言った通りにやったのに、うまくいかなかった」「むしろ、なんでこんなことしたんだと怒られた」「もっとこうすればいいじゃないかと言われたが、最初はそんなこと言っていなかった」というのは愚痴の定番です。
しかし、そういうことが起こるのは部下の多くの人が思う理由ではありません。上司に悪気があるわけではなく、単に「言葉にできない」のです。「言っている」側は、自分は実際にそう「やっている」と思っているのです。自己認知が不足しているのです。

「言葉にできる」ようになるには言葉にするしかない

そんな言行不一致な上司にならないためにはどうすればよいでしょうか。それは部下に仕事を教える際に、できるだけ具体的に詳細にやるべきことを言葉にすることを繰り返すしかありません。
本当はある程度手順にできるにも関わらず、「ここらへんは感覚でいいから」とか言葉にする努力を放棄してしまったり、「こんな感じにしてほしい」とゴールだけ示して、どのようにアプローチするのかを教えなかったりするようなことをしていれば、いつまでたっても言語化能力は高まりません。
しかも、その「ざっくりの指示」が合っていればまだしも、間違った方向性の指示であれば、部下はたまったものではないでしょう。

その場でわかるまで教えましょう

ですから、これからの時代、上司は部下にモノを教えるときには、もったいぶらずに最初から全部の工程や手順を細かく教えてあげるほうがよいのではないかと思います。
ざっくり教えて「わからなかったら聞いて」が通用しなくなっているのです。部下がやってみてわからなかったら聞いてこい、ではなく、細かく説明して、やる前に具体的にどうすればいいかイメージできなかったら、その場でわかるまで作業をさらに細かく説明していくというふうでなければなりません。
面倒くさいと思うかもしれませんが、一度言葉にすれば残りますので、他の人に教えるのにも使えますし、言葉にしていく過程で自分の言行不一致に気づくかもしれません。そう考えれば、言葉にする作業に時間を使うのは、部下にとってはもちろん、上司自身にとっても、けして無駄ではないはずです。
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
 
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石井あかね=イラスト


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