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23歳、デビュー作がいきなり芥川賞を受賞

平野啓一郎
「幼少期は本を読むより野球やサッカーをして、外で遊ぶほうが好きでしたね。また音楽も好きで、友人とバンドを組んでいました」。
平野さんの音楽への愛情は深い。取材中もヒップホップやR&Bに話が及ぶと声が弾んだ。最近はNetflixのドキュメンタリー番組「ヒップホップエボリューション」にハマっているという。小説を読み始めたのは14歳の頃。三島由紀夫の『金閣寺』に深い感銘を受けた。
「もちろん、当時はまだ小説家になりたいなんて思ってもいませんでした。東京にいると本を出すというのは比較的近い現実ですが、僕は福岡に住んでいたから、出版社とか作家っていうのは何かすごく遠い存在だった」。
いわゆる“ロスジェネ”と呼ばれる世代。大学生になった平野さんは、バブル景気の狂乱とその後の暴落を冷めた目で眺めつつ、小説を書き始めた。
「当時は東京には絶対出たくないと思っていました。僕が中学、高校時代にバブル絶頂期を迎えて、メディア越しに伝わってくる東京の光景は馬鹿げて見えた。こんな大人と心底思ってました。まあ、今にして思えばそれもテレビに作られたイメージだったかもしれません。今こうやって住んでみると東京も悪くないなって思うんですけどね(笑)」。
京大へ進学後、在学中に投稿したデビュー作『日蝕』で、いきなり芥川賞を受賞。当時最年少となる23歳、さらには現役大学生ということもあり、一気に文壇の脚光をあびる存在となった。「三島由紀夫の再来」と呼ばれるセンセーショナルな作家デビューだった。
「別に僕が三島に影響を受けた話をしたわけでもないんですよ。最初に僕の原稿を気に入ってくれた新潮社の編集長がそう感じたんです。三島の名を出されて自尊心を満たされることもあったけど、さすがに戸惑いも大きかったですね。ただ大学でもどこかの企業で働くってことをおぼろげにしかイメージできていなかったから、受賞して小説家として生きようという気持ちが固まっていきました。賞というのは社会的な意味がすごくあるんですね。母も安心したみたいだったし」。


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