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国立がん研究センターのがん対策情報センターの統計によると、2016年に診断された全罹患者は約100万人だ。15歳から64歳の就労世代は約26万人で、全体の3割弱。
だが、治療しながら働く人の声を聞く機会は少ない。仕事や生活上でどんな悩みがあるのか。子どもがいるがん経験者のコミュニティーサイト「
キャンサーペアレンツ」の協力を得て取材した。
人材紹介会社に勤める金澤雄太さん(37歳)は5年前、盲腸の手術でがんが見つかった。その後、2度のがん転移を経験したが仕事を続け、2018年11月に職場で月間MVPを受賞。彼の軌跡には病気の有無にかかわらず、困難に直面しても、自身の行動で打開して成長につなげるヒントがある。
彼が「がんは天罰」と受け止めた理由
2014年11月、金澤雄太さん(当時32歳)は、盲腸の手術で切除した部分にがんが見つかった。なぜ、自分はがんになったのか。約3カ月間の入院中に自問自答するなか、金澤さんに思い浮かんだのは「天罰」の2文字だった。「天罰」とがんにどんな関係があるのか。彼の説明はこうだ。
当時の金澤さんは管理職2年目。個人の業績を上げつつ、チーム全体の業績向上にも責任を持つ、プレーイング・マネジャーだったという。
「しかし、当時の私は個人業務よりも、部下への助言や指導を優先し、チームの業績向上に集中することが、管理職である自分の仕事だと考え違いをしていました。お恥ずかしい話ですが、楽をしてしまったんです」。
今はプレーイング・マネージャーを置かず、管理職は管理職業務に専念すべきという会社が多い。だが、金澤さんの会社は、専門職や管理職の人材を対象とする企業の採用支援が主要業務。そのために課長職クラスは管理業務に加えて、個人の数値目標を持つ。人材紹介業界の特徴だという。
また、盲腸の手術での入院前、彼は別チームの管理職からこう耳打ちされた。
「『金澤さんの部下数人が、あなた抜きでミーティングの予定を立てているようだよ』と言われました。聞いたときは恥ずかしかったし、悲しかったです。それをほかの管理職から聞かされたのもショックでしたね」。(金澤さん)
個人の業務をおざなりにして、上から目線の管理職然として振る舞っていたことが、一部の部下たちの離反を招いたと彼は直感した。
もちろん、彼の管理職としての行動と、がんに直接の因果関係はない。だが入院後、がんになった理由を考えあぐねた金澤さんが思い至った、「天罰」の理由がそれだった。彼の人となりがうかがえるエピソードだ。
2015年3月に金澤さんは最初の復職をする。従来のプレーイング・マネジャーではなく、プレーヤーとして、だ。
「退院後の体調と、抗がん剤の影響も未知数でした。当時4歳の長女と生まれたばかりの次女、そして妻との時間を大切にしたいという思いもあり、管理職は自発的に断念しました」。
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