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偉くなることはゴールじゃない

小杉幸一
大手広告代理店に勤め、仕事も順調。そんな安定した日々を送る中で、なぜ小杉さんは独立に踏み切ったのだろうか。
「やめようと思い始めたのはいつだったか……。いつからか不満を言う自分を自覚することが増えてきたからかもしれません。それは会社に対してではなく、自分への不満から来ていました。僕にとって会社の中で偉くなることはゴールじゃない。もっと新しい視点で、アートディレクターのポジションや、翻訳の方法を探しに行きたくなったんです」。
組織にいるより、もっと身軽に。年齢を重ね、会社での地位を確立した小杉さんは、もう一度自分の足で歩きたいと思うようになっていた。
「会社には自分の可能性を広げてもらったし、ずっと守られていました。独立した今、ここからはすべて自分の責任です。そういう緊張感が原動力にもなって、密度の濃い時間を過ごしています。組織にいても独立しても、結局一番大切なことは変わりません。作品で世の中とコミュニケーションする、そしてそれを楽しむこと」。
小杉幸一
独立してまだ1年にも満たないが、現在の仕事の充実ぶりは朗らかな表情から窺い知れた。フリーになって、「自分の色」は見つかりそうなのだろうか。
「最近は、見つからないほうがいいんじゃないかっていう気もするんですよ。見つからないから、走り続けられるし、決めていないからワクワクできるのかもしれません。色にこだわらず、世に出るもので人を喜ばせることができればいいんじゃないかって」。
誰かに喜んでもらいたいと、一生懸命絵を描いていた少年時代の気持ちは、今も変わらず残っている。
 
藤野ゆり=文 小島マサヒロ=写真


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