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プロセス重視の制作を教わった美大時代

小杉幸一
美大ではアウトプットを評価されるかと思いきや、意外にも課題をやり遂げるまでのプロセスを重視されたという。その経験は今も小杉さんのクリエイティブに影響を与えているようだ。
「どうやって課題を解決していくかの過程が大事なんです。例えば、単純な直線1本1本にさえ『この線にはどんな意味があるのか?』といった細かいプロセスが求められた。そこで気付いたのはデザインの言語化の重要性でした。『なんとなく』の感性で勝負するのではなく、プロセスを組み立てるための論理的思考がクリエイティブには必要なんです」。
ただの線1本にどんなコンセプトをのせるのか。線に意味を持たせるのもそれを言語化するのも、できるのは制作者である自分だけだ。がむしゃらに描くのではなく、アウトプットの過程を突き詰めていく手法は、その後、新卒で博報堂に入社した後も受け継がれた。特に大貫卓也、佐藤可士和など、偉大な先人たちのクリエイティブには大きな衝撃を受けた。
「佐藤可士和さんのデザインは、『デザインの概念』を超越したものです。目的のためには手段を選ばない。歴史に残るデザインとその作り手がたくさんいた時代に入社できたことは幸運でした」。
とは言え、偉大な先輩たちの元で、毎日膨大な量のインプットを強いられる作業は決して生易しいものではなかった。
「そもそも勉強が苦手なのに吸収しないといけないことが多すぎて、頭はパンク寸前でした。このままではインプットとアウトプットのバランスが崩れると思ったので、業務の合間に友達や家族にロゴやデザインを無償で作って、インプットしたものを吐き出す作業をしていましたね」。
小杉幸一
デザインを言語化し、体系立てて説明するスキルを身につけるうえでは、師匠である佐野研二郎氏の影響を強く受けたという。
「佐野さんには、例えば、自分のスケジュール管理やプレゼンのような作業的な部分においても“デザインする”ことの重要性を教わりました。一般的にデザインってクリエイティブな感性で勝負するイメージが強いと思うんですが、マネジメントや編集能力も必要なんですよね」。
デザイナーとしての膨大な知識を吸収する一方で、小杉さんはクリエイターとしての「自分らしさ」を見つけられず、もがいていた。
「表現者ってアウトプットに個性を求めることが多いですよね。色使いや書体、写真のトーン、無数にある表現の組み合わせの中で、『これは〇〇さんっぽいよね』と言われるような作品をつくることが個性だと思っていた。それが自分の色にもなると思っていました。でも僕には、それがなかった」。
自分の色が見つからない……。模索を続ける中で小杉さんはどのように自分の色を見つけ、独立するまでに至ったのか。その続きは後編で。
後編はこちら
藤野ゆり=文 小島マサヒロ=写真


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