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チームに変革をもたらすことができるよう、ほかの選手たちに働きかけられるリーダーシップを植え付けていった。これは今大会の日本代表でも受け継がれ、キャプテンのリーチマイケルを筆頭に、稲垣啓太、ピーター・ラブスカフニ、姫野和樹、流大、中村亮土らが務めた。
荒木さんの著書『リーダーシップを鍛える ラグビー日本代表「躍進」の原動力』でも紹介されているが、このやり方は最新のリーダーシップ論でもある「変革型リーダーシップ」にあたる。日本でもよく見られてきた「俺に付いてこい」的な「従来型リーダーシップ」とは、まったく異なるものだ。
自分の過去の成功経験や感覚といった根拠のない、曖昧なものだけを頼りにしてしまうと、仲間や部下、選手といったフォロワーたちに指示命令を繰り返してしまう。ともすれば「できないなら、もうやめろ」となどと圧をかけるものになる。受け取り方次第でパワハラに発展しかねない。
荒木さんは多種多様な競技でトップアスリートやチームをサポートしながら、企業から請われてビジネスパーソンを対象にしたセミナーも多く行ってきた。リーダーシップを従来型から変革型に転換できないまま問題を抱える組織の実態を多く見てきた。

変革型リーダーシップの「4つの要素」

「多くの方が、『僕はリーダーの器じゃない、上に立つ才能はない』などとおっしゃいます。でも、リーダーシップは素質ではなく、スキルなんです」と荒木さんは言い切る。
例えば、ラグビー日本代表の選手らが磨いた変革型リーダーシップには、心がけていけば磨ける「4つの要素」がある。
① リーダーが倫理、道徳にのっとった言動を遂行することで生まれる「理想的な影響力」
② フォロワーに対し、任務の大義を明確にして、有能感を引き出し、内発的動機付けを目指す「モチベーションの鼓舞」
③ 自身や組織の「当たり前」を変えることで変革をもたらす「思考力への刺激」
④ 各々に興味を示し、能力やニーズを理解しながらコミュニケーションを図る「個人への配慮」
例えば、肩書がなくともこれらを磨く人は「チェンジ・エージェント」になれる。チェンジ・エージェントとは組織における変革の仕掛け人、あるいは触媒役として変化を起こしていく人を指す。
FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグ氏は、「リーダーシップとは、リーダーの存在が周りの人たちを成長に導き、そしてリーダーが不在となってもその影響が継続されること」としているそうだ。
「彼女の言葉を要約すると、フォロワー全員の成長を促す文化や社風を作るのが、真のリーダーになります。そう考えると、何も肩書がつく人ばかりが影響を及ぼすわけではありません。組織やチームの目標達成に向け、フォロワーにいい影響を及ぼす行動をとる個人がいるとすれば、その人は間違いなく“みんなのリーダー”になれる」と荒木さん。
ジョーンズ前HCのリーダーシップも、まさにこれに当てはまるという。
「選手のみならず、コーチングスタッフの成長をも導いてくれました。そして、最後には選手全員がリーダーの役目を果たし、チェンジ・エージェントになったわけです」。


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