ディオールのサマー2020メンズコレクションから、弩級のアイテムが届いた。
シルク素材の半袖ジャンプスーツ、通称つなぎ。価格は1400万円。いや、どうしたって念を押したくなるが、ウェディングドレスや着物ではなく、ジャンプスーツである! 我々の理解の範囲のはるか上をいく服だが、うろたえてはいられない。いったいどういうことなのか。
白地に呉須のような色調で描かれているのは、植物や動物や精霊たちだ。これは18世紀に生まれた「トワル ドゥ ジュイ」と呼ばれるフランスの伝統柄。決まった柄はなく、草花や動物など田園風景をイメージさせるモチーフが多用されるという。
で、このジャンプスーツの柄は、モンテーニュ通り30番地の、ディオールが初めて構えたブティックの壁にプリントされていた「トワル ドゥ ジュイ」に倣ったという。となるとこのプリントはフランスの伝統的な手法で……と想像するが、違う。実は日本の、京都の職人による手描きなのだ。ここに当代アーティスティック ディレクター、キム・ジョーンズの考えがある。
本コレクションでディオールが掲げるコンセプトの1つは「オートクチュール」。メゾンの歴史に敬意を払いつつ、既成概念にとらわれない手法を用いる。それによって、オートクチュールの神髄である「職人の手仕事」の、時代や場所を超えた普遍性を表現したのだ。
思索の深さに舌を巻くが、斜に構えず、こんなクリエイションを通じてド派手にぶち上げる姿勢が痛快。ファッションの未来は、きっと明るいはずだ。
清水健吾=写真 来田拓也=スタイリング 加瀬友重=文