全てにおいてスピードが大切な時代とも言われますが、じっくりと土を耕す時間を与えずに結果だけを求める現状には疑問を感じます。ビジネスの世界でも同じことがあると思います。新入社員をじっくり育てる余裕もシステムもなく、いきなり現場に投入する。そこで結果が出なければ、「デキない社員」の烙印を押す。上司はそういう社員のミスを恐れて、仕事を抱え込んでしまう。
どう考えても組織にいい影響を与えるとは思えません。そういう組織は、豊かだった土壌がどんどん枯れていって、やがて芽が出ない畑になってしまいます。だからこそ、強いチームをつくりたいなら、まず環境づくりなのです。
グラウンドでの定位置は離れた場所
チームに考える習慣が浸透してくると、個々に考えるだけではなく自主的に話し合いをするようになります。考えることは、縦のつながりも横のつながりも生み出すということです。ここまで成熟したチームになると、監督の立ち位置は変わってきます。成熟するまでは何かと教える立場ですが、成熟したチームの監督は変化を感じ取るのが主な仕事になります。
そのため、グラウンドでの定位置はチームから離れた場所です。私はそこからチーム全体の雰囲気を見ています。そして、選手たちが間違った方向へ傾きかけていると感じたときだけ動きます。
就任した当初は怒ったこともありましたが、今は怒るよりも諭すことが多くなりました。チーム全体を俯瞰で見ているのは監督ですから、感情的に怒るよりも言葉でじっくり諭したほうが部員の心に響くものです。
そのためにも、監督は、チーム状況の些細な変化を感じるために本気で観察することです。日頃から注意深くチームを見ていると、後々大きな問題になりそうなちょっとした変化に気づけるものです。
チーム内に何かが起きて雰囲気が変わると、部員にいつもと違うところが現れます。話している内容だったり、表情や仕草だったり、食堂で座る場所が変わっている場合もあります。その違いは真剣にチームを観察していれば、必ず気づきます。そういう意味でも私の定位置は、やはりチームから離れた場所になります。チームから離れて全体を見ていないと監督の仕事はできないというのが、私の考えです。
エンジン全開でこちらの部員、あちらの部員と精力的に指示を出している監督もいますが、それはチームがまだ成熟していない証拠です。あるいは、こと細かに指示を出さないと気が済まない監督だと思います。それだと、いつまでも監督が中心で、監督がいないと回らない、進化しないチームになってしまいます。チームが強くなるほど、監督の「見る」仕事は増えていく。それが成熟したチームの理想形です。
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