街がランウェイになるスニーカー●世界のファッションショーを長年に渡り取材してきたファッションジャーナリストの増田海治郎。そんなランウェイの専門家であり中毒患者でもある増田が、トップメゾンの最旬スニーカーを多角的な視点で解説する短期連載。第5回目はバレンシアガ。
デムナ・ヴァザリアは、この5年のモード界の最重要人物のひとりだ。先日、退任を発表した自身のブランド「ヴェトモン」、そして2015年からアーティスティック・ディレクターを務めるバレンシアガで、最前線のファッションを牽引してきた。
彼はオーバーサイズのムーブメントを作り、ストリートファッションをカニエ・ウェストやヴァージル・アブローとは違うベクトルで表舞台に上げた。
デムナはスニーカーでも革命を起こした。2017年9月に発売した「トリプル S」。ランニングシューズ、バスケットボールシューズ、トラックシューズの3つのソールを重ねた異様にボリュームのあるこのスニーカーは、スポーツブランドには決して作ることのできないもので、“ダッドスニーカー”の名のもと、多くのフォロワーを生んだ。
2017年の1月、パリ左岸のバレンシアガのショールームでトリプル Sを初めて見たときの衝撃は今も忘れられない。
製品版よりプリミティブな出来栄えで、これは製品化されないのかな? と思ったりもしたが、その突飛なアイデアとこれまでのスニーカーにはないボリューム感に腰を抜かした。それから1年も経たずとして、世界中で一大ブームを巻き起こしたわけだから、時代を見抜く目は見事というほかない。
バレンシアガのスニーカー快進撃の今
そんなデムナの最新作が、高いパフォーマンス性を備えた「トラック」の進化版である「トラック.2」。トレイルランニングシューズを連想させるデザイン、まるで蔦が複雑に絡まったかのようなオープンエア型の構造が特徴で、アッパーは176ものピースから構成されている。
さまざまなカラーバリエーションも魅力のひとつで、黒1色でもその複雑なデザインの真髄が味わえるし、写真上のような黒にオレンジとイエローを組み合わせたモデルは、よりトレイルランニングシューズ感が強調される。
トリプル Sほどのボリュームはないから、合わせる服を選ばないのも美点だ。
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