OCEANS

SHARE

2人の最新の“仕事”に込めた想い

ーー新作『けものたちの名前』について聞きたいんですが、前作の『HEX』がとても高い評価を得て、バンドも違うフェイズに入った感覚があったじゃないですか。それを踏まえて、どういうアルバムを作ろうと?
『けものたちの名前』ROTH BART BARON(felicity)
『けものたちの名前』ROTH BART BARON(felicity)
通算4作目のフルアルバム。映像を喚起させる多元的なサウンド、壮大な世界観、シンプルな言葉で紡ぐ人間の普遍的な感情——彼らがこれまで培って来た要素を最良の形で封じ込めた意欲作。純粋無垢な「こどもの視点」を通して、現代に生きる大人たちの姿を鮮やかに浮かび上がらせる楽曲が揃う。未知数の魅力を持つ13歳のシンガー、HANAをはじめ、ザ・ナショナルを手掛けたジョナサン・ロウ、チャンス・ザ・ラッパーを手がけたL10Mixeditがエンジニアとして参加している。
三船 前作の延長でもあり、かつ深化でもあり、という作品です。あらかじめ「こういうことをやろう」というふうには決めないで、むしろ自分にないものを求めて。「手の届かないリンゴを背伸びして取りに行く」みたいな感じだったな。そのためには自分の心に、どう深く潜っていくのか……2010年代をどういうふうに終わらせるかっていうテーマもありました。
ーーそのビジョンは共有していたんですか? 中原さんが三船さんに「次はこうしたらいいんじゃない?」という提案をしたりとか?
中原 共有はしてましたけど、提案に関しては、僕からは具体的なことは言わないです。

ーーちなみに、中原さんが、三船さんが書いた曲の中で「すごくいい」と思ってるものはありますか?
三船 フフフ、いい質問ですねぇ(笑)。
中原 えっ……(めちゃくちゃ照れている)……今作で言うと『けもののなまえ』とか……いろいろありますよ。
三船 (中原に向かって)ありがとうございます(笑)。
ーー普段、こういう話もしないんですね。
三船 しないですよ。そのへんはお互い日本人らしくてね。褒めない(笑)。
ーーピュアで豊潤で、確かな世界観としなやかな強さが感じられる堂々とした作品だな、と思います。これは目指していた通り? それとも、思ってもみなかった仕上がり?
三船 基本、不確定要素も楽しめるようにスペースは残してあるんです。バンドでやるってことは、イレギュラーなことが起こるってことだから、自分以外の人が入ってきた意味を作品の中に取り込めるようにしないと。本当に譲りたくないところや作品の根源は保ちつつ。特に今回はたくさんの人たちが参加してくれたんですけど、イレギュラーなことがいろいろ起こって作品に影響したという意味では、それは予想通りだったと言えるかもしれない。
中原 もともとバンドの芯の部分がちゃんとあって、そのうえで余白も楽しめるようになっているから、ほかの人が入ってきてもバンドの本質は変わってないですけど。
三船 今回はゲストヴォーカルのHANA(13歳のシンガー)はじめ、多様な年齢、性別、人種を作品に取り入れて、ダイヴァーシティ(多様性)を確保しながら、バランスを取ったアルバムにしたかった。でも実際出来上がってみると、そうした属性を越えたものになっていて、それがちょっと驚きでした。結局、いいものは年齢も性別も関係なくいいってことが実感できた。そのことに感動しました。
ーー音楽と向き合うことは、自分と向き合うことでもあります。2人がアーティストとして活動してきた歳月の中には、どんな“気づき”がありましたか?
中原 ツアーで海外も含めいろんな場所を回って、いろんな人と出会って、世界には本当にいろんな人がいるんだっていうことを再認識したんですけど、その多様性の中で自分という存在をどう保つか……そのことを改めて考えさせられました。そういう体験の中で得たものが、僕らの作品として、自然とアウトプットされてるんじゃないですかね。
三船 そうだね。僕はたまたま、日本人離れした見た目ということもあって、昔から自分は他の人とはちょっと違うなっていう意識があった。だからこそ“違い”に寛容になったんだけど、日本って、とかく横並びだから、“人と違う”ということが“生きづらさ”に繋がったりするでしょ。だからこそ余計に、ユニバーサルな観点で、あらゆる属性に関係なく誰にでも楽しめる音楽、というのを意識して作るようになった。“違い”に寛容ということは、自由度が広がることでもある。今回、『けものたちの名前』で、それがある程度達成できたのかな、と思います。
 
美馬亜貴子=取材・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。