OCEANS

SHARE

「葉山のために」が、いずれ世界を変える

——グローバル基準を満たす葉山の資源とは何でしょうか?
アメリカのCNNによる「世界のビーチ100選」に、2013年、葉山の一色海岸が選ばれています。御用邸のあるビーチという背景も選ばれた理由でしょう。また葉山は日本のヨット発祥の地で、前述のロックフェラーJr.氏もヨットをしに来ました。
夏の一色海岸。きれいな海を求めて、多くの観光客が集まる。
今も大使館の方々が対抗レースを行なっていたりなど、国際交流を育める環境が葉山にはあります。ちなみに英国セーリングチームが、来年の東京オリンピックに向けた事前キャンプの地に葉山を選んでくれました。受け入れ側の町民にも、国連で働いていた方、長野オリンピックやハリウッド俳優の通訳をしていた方など、国際感覚を持つ方が多くいらっしゃいます。
そうした方たちが「葉山のためになるなら」といった思いでサポートしてくれる。葉山の土地柄の良さは人によるところが大きいと思います。
——町民意識が高いと町政が難しくなる面もあるのではないですか?
むしろ意識が高いがゆえに、助かっていることが多くあります。何より駅から遠い葉山は交通の便が良いとは言い難い町です。その人なりの理由がないと住み続けるのは難しい。それでも東京などから移り住む人がいる。総じて好きで住んでいるんだというマインドが根底にあるので、「葉山に良いことなら」という点で必ずまとまるんです。
里山での稲刈り体験も実施。海だけでなく、山も近くにあるのが葉山の魅力だ。こうした環境で育った子供たちが、葉山をもっと好きになっていく。
成人式実行委員の方々なんて20歳ですよ。「俺ら葉山好きなんですよ。スピーチで葉山が好きって語ってくださいよ」と言ってくる。すごい20歳だなと思うんです。
——町民が抱く最大公約数的な葉山の魅力は海や山がきれいということ?
圧倒的にそうですね。町のアンケートでも「自然の豊かさ」が1位になっています。フォルクスワーゲンジャパンのティル・シェア社長も、葉山の海岸は西向きで、アメリカ西海岸のカリフォルニアのようなムードがあると高く評価していました。
サンセットが見られて、北と南からの風がどちらも抜けていくので空気がいつもクリア。そして富士山を眺められる。温暖で穏やかな風土でもあり、だから別荘地として栄えたのでしょうね。

——最後に、葉山の展望を教えてください。
実は、行政にいると行政の無力さをすごく感じるんです。ある企業の社長さんは「企業が動いて世の中が変わる」と言っていました。社会を作っているのは我々だと。ある意味、そうだと思うんですね。
行政ができるのはセーフティネットを作ること。生活を、生きるを、福祉を支えることです。そしてこの点に、私たちは力の弱さを感じています。ぜひ社会をリードしうる経済界の方たちには、この点を敏感に感じていただけると嬉しいですね。
改めて今回、葉山は自動販売機でのペットボトル販売をやめたわけですが、経済活動に比べれば、削減できるペットボトルの数なんてわずかなものです。ただ「もう使わないぞ」という姿勢を示し、リーダーシップを取ることで、環境に優しくない製品を産業界が作っても葉山では売れない、神奈川県では売れない、という流れを生み出せればいいなと思っています。
また経済界の人が今の世の変化をキャッチし企業活動を展開し世論を巻き込めば、政治と行政はついていくものです。
きっとこの記事を読まれる方々は、社会を作っていく世代の方だと思いますので、自分たちの子供の世代のためにも、より良いリーダーシップを発揮していただけたらと思います。
 
>前編「プラごみゼロ宣言した町・葉山。渋谷出身の町長が考えていること」を読む
 
熊野淳司=写真 小山内 隆=取材・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。