黒革のアウター。それはロックンロールの音がするダブルのライダースジャケットを、あるいは映画の中のマフィアな男が着るテーラードジャケットを想像するかもしれない。そんなユースやアウトローのためだけのものではない、まっとうな大人の男が似合う・魅了される理由を、個性派論客とともに提案してみたい。
映画な黒革を見て思う
ハゲ、デブ、マジメな黒革が格好いい 〜林 信朗・文〜
黒革というと単純なぼくはスグに松本清張原作のテレビドラマ「黒革の手帳」を思いだしてしまう。この場合の“黒”はもちろん秘密を暗示しているわけで、『牛革の手帳』や『茶革の手帳』ではまったくタイトルにならないわけでありマス。それほど黒革には人をして思わしめる「何かがある」のですね。
映画世界でもそのイメージを利用し、いろいろな役柄の俳優が黒革のジャケットでキャラクターを作っている。名作『ロッキー』シリーズのシルベスター・スタローンはあれを着ていたから主人公ロッキーのやさぐれ感がズバッと出せたのだ。
しかし、黒革のご利益はそのテの若いチンピラ系に限ったことではありませぬ。まっとうなオトナの外見にも「あら?」と思わせる薬効あり。しかも、オトナ特有の体型やなんやらの問題を、解決こそしないがカバーし、それなりの「サマ」を作ってくれます。
たとえば『ハドソン川の奇跡』のトム・ハンクス演じる主人公なんてマジメすぎるほどマジメなパイロットで、若干太めだけれど、ユニフォームを脱いだら黒革のジャケット姿になる。これがね、とても彼を引き締まって見せてくれる。
合わせて下に着るのはサックスブルーのストライプシャツとニットで清潔感十分。このまま自家用飛行機でも操縦しそうな、リッチで余裕のあるインプレッションなのです。同じ黒革を着ていても、ロッキーとは見え方がまるで正反対だ。
『ブラック・スキャンダル』のジョニー・デップなんざ、かなり生え際が後退したギャングを演じているが、スタンドカラーの黒革ジャンパーが妙に絵になっていないか? スタンドカラーのボリュームが少ない髪を補っているのかもしれないのです。ギャングでなくても中年男の使えるコーディネイションですよ。
出演映画じゃないけれど、名優ジャック・ニコルソンはプライベートでも黒革コートを愛用しているのを、ハリウッド関係のニュースサイトで見たことあり。アカデミー賞アクターには失礼だが、堂々たるデブ&ハゲっぷり。それでもこの黒革コートを羽織れば、役者ニコルソンのエッジを完璧に保ちつつ、リラックスした風情を漂わせている。
ロック系やら不良系やらのわかりやすいキャラが立ちすぎる若い黒革より、「何かがある」黒革の魅力は、むしろ人生のキャリアを積んだ大人のものというまぎれもない証拠が、彼らハリウッドの男たちだと思うのですがね。
林 信朗(はやししんろう)●1954年生まれ。数々の男性ファッション誌編集長を務め、フリーの服飾評論家に転身。歴史上の偉人や映画登場人物の装いにも精通する、我々の大先輩。
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