僕たちは別に可哀想な人たちではない
おそらくそこに共感は生まれないでしょう。というのも、若者たちは、生まれたときからずっと不景気でデフレの時代を生きており、これが「ふつう」だからです。「僕らは不景気な時代に生きている」ともちろん理解はしていますが、あまりに「ふつう」過ぎて、「不景気で不幸だ」というような実感はありません。平成の間、親世代のサラリーマンの平均年収は数十万円も下がりました。小遣いも、仕送りも減り、モノは買えなくなりました。
バブルの頃の大学生の仕送りの生活費は平均7万円(家賃は含まず)、今は平均2万5000円です(しかもそのうち数千円はスマホ代)。こういう「お金がない」という制約条件に慣れた彼らは、外食も酒もクルマも高級ブランド服も要らないと、そもそもモノを欲しがらなくなっています。
お金がないと楽しめないのはカッコ悪い
彼ら若者たちはこの不景気な日本を、うまくスマートに生き抜いています。デフレも後押しして、節約生活も楽しんでいたりします。それを「不幸」と言われて同情・共感を上の世代から強制されても、違和感を持ってしまうのではないでしょうか。
むしろ、不景気をことさら言いたてて、バブル世代への羨望を隠さない我々世代は、カッコ悪いのです。「仕方のないことに対していつまで愚痴を言うのか」「そんなにバブル景気がうらやましかったのなら、頑張って景気良くすれば良かったじゃないか」と思うでしょう。
中途半端にバブルの残り香を嗅いでしまい、中途半端な消費生活をしている上司は、「今の世を楽しめない、現実逃避の人」にすら見えるかもしれません。「なんでそこまで無理して、お酒飲んだり、キャバクラ行ったりしてるんですか。バカなんですか」と。
質素だが豊かな精神生活に共感の可能性あり
バブル世代や氷河期世代から見れば、お金がない状態でも楽しもうと、節約生活を送ったり、スマホでバーチャルでお金のかからない「コト消費」をしていたりする。そんな若者は、「やせ我慢」に見えるかもしれません。
しかし、その認識を改めなくては、いつまでも「欲にまみれた汚い人」と思われるのがオチです。
彼らはお金持ちにむやみに憧れず、欲望を自然にコントロールして、清貧に質素に、しかし豊かな精神性の高い生活を送っているのです。満ち足りている人も結構います。
そういう若者に「俺たち不景気な時代に生まれて、割食ってるよなあ」と共感を求めてもダメです。「お前も欲求不満なんだろ。おごってやるから発散しようぜ」といったアプローチも唾棄レベルです。
むしろ彼らの生き方に寄り添って、自分たちも質素だが精神性の高い暮らしにチャレンジしてみることが大切です。なるべくお金を使わずに、豊かな暮らしを実現しようとすることが、若者を理解し、共感を得る「好かれる上司」につながっていくのではないでしょうか。
曽和利光=文 株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長 1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。 |
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