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「古楽」はダンスミュージック

—古楽時代というのは教会音楽、また農民音楽(フォーク)もそうですね。
柴田 ロックを演奏する方に「古楽」を聞いて頂きました。言われたのは「クラシック音楽を聞いて、こんなにビートを感じたことはなかった」ということでした。
実際18世紀のバロック時代というのは、一般の人が楽しむ世俗的な音楽と、厳かな宗教音楽がうまく混ざり合って、現代までのクラシック音楽の基礎を作った時代でした。
民俗音楽、つまりフォークミュージックも含まれます。それはダンスであり、農民の歌であり、ときには粉を挽きながら歌うとか踊るとか。だから根底にビートが感じられるんでしょうね。日本でいう盆踊りみたいなもので、教わっていなくてもわかる、みたいなものです。

—なんだかほっとします。クラシック音楽と聞くと、どうもアカデミックな気がしてしまうので。
柴田 絵画でもバロックの頃のものは、人間の苦しみや痛み、またドクロや蛇などのおどろおどろしいもの見ることがありますよね。劇的で躍動感があり、人間の感情に直接訴えかけてきます。音楽も同じです。
「古楽」の頃は、音を通じて話す、というような時代でもあったと思います。いかにドラマを作って伝えるか、ライブの良さ、ライブのバトル感、アドリブと駆け引きが演奏にあるのです。本当にジャズのジャムセッションです。
もちろん古楽はアカデミックな観点から出発したクラシック音楽でもあり、作曲家の意図は大切です。その一方で、演奏家にある程度の裁量があり、即興能力が当然とされていました。
その場で音楽を作るという感覚です。決して書かれた音だけを忠実に再現する、音の博物館ではないのです。
浜松市楽器博物館にて。
「古楽」を聞きながら、人々が踊っている様子を思い浮かべた。収穫の祝いや結婚などの特別な機会だけでなくとも、音が聞こえてくれば体を動かしたくなったことだろう。本当に盆踊りと同じだ。
今では神のように思われるパパ・バッハも、教会音楽だけではない、結構世俗的な曲を作っていたし、なんとビジネスとして楽器商も営んでいたという記録もあるようだ。友人、知人を招いて、部屋で楽を奏でながら踊りまくる一夜だってあったかもしれない。そう思うと「古楽」が本当に身近に感じられる。
人が集い、心を通わせるときを作ってくれるのが「古楽」なのではないかと思っている。柴田さんの話を聞くうちに、ますます「古楽」が好きになってきた。
著者プロフィール
平野佳(ひらのけい)●日本を拠点に、世界を飛び回るクリエイティブコーディネイター。ライフスタイル関連のプロダクトのプロデュースやアーティストの発掘など、手掛けるジャンルは幅広い。ブログ的フォトエッセイ「AL FRESCO〜おとこの躾の向こう側〜」ではその仕事の一部が伺える。

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