一般的に「デュアルライフ」といえば、都会と田舎の両方に生活拠点を置くことを指す。ではなぜこのニットがデュアルライフ?
ひとつには、このニットそのものに二面性があるということ。洗練されたボタンレスのショールカラーでありながら、民族調の味のある編み込みが施されている。我々のスタイルに寄せていえば、海でも街でもキマるし、さらに「いつもの感じ」から一歩抜け出た着こなしを実現してくれるニット、ということ。
そしてもうひとつは、創業デザイナーであるムッシュ イヴ・サンローランのデュアルライフだ。40年にわたるコレクション活動の間、彼は絢爛たるパリとモロッコのマラケシュそれぞれに自宅を構え、継続的に行き来したという。そのスタイルは、まるで誰にも気付かれないような細い糸を伝うように現クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロにインスピレーションを与え、このニットを新たに紡ぎ出したのかもしれない。
デュアルライフ時代のムッシュ イヴ・サンローランデュアルライフを送っていた1980年代のムッシュ イヴ・サンローランの姿。そして、2002年にコレクション活動から引退。その後はほとんどの時間をマラケシュの家で過ごしたという。彼が生まれたのはフランス領アルジェリア。故郷であるアフリカ大陸には特別な思いがあったのだろう。
清水健吾=写真 柴山陽平=スタイリング 加瀬友重=文