「これはひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大なる一歩である」。
白黒のテレビ画面を通じて、月から届けられたニール・アームストロングの言葉だ。アポロ11号の月面着陸からちょうど50年が経ち、今度はあの「ザ・ノース・フェイス」が偉大なる一歩を踏み出そうとしている。
その“一歩”の結晶が、ザ・ノース・フェイスが12月12日(木)に発売する「MOON PARKA(ムーンパーカ)」だ。最大の特徴は、生地に使われている構造タンパク質素材。石油などの化石資源に頼らず、微生物による発酵プロセスで生まれるタンパク質を使った“究極のサステイナブル素材”として注目を集めている。
新素材はバイオベンチャー企業「スパイバー」との共同開発で、2015年からプロジェクトをスタートさせていたが、試行錯誤を繰り返してようやく実用化に至った。
「新素材の研究開発は、地球平和のための活動です」
開発は困難を極めた。もとは天然の構造タンパク質である「クモの糸」を人工的に再現し、アパレル製品への応用を目指してスタートした。しかしクモの糸は水に濡れると数十%も縮小する“スーパーコントラクション”という特性があり、これが衣類に用いるには致命的だった。
スパイバーの代表、関山和秀氏は言う。
「製品化までは時間がかかりました。基礎研究からやり直して、たくさんの種類のクモの遺伝子を解析し、そのメカニズムを解明しました。仮説を立て、アミノ酸配列の並び変えて、アウトドアジャケットに必要な機能を残しつつスーパーコントラクションの特性を取り除く……その実験の繰り返しでした」。
数々のトライアンドエラーを繰り返し、ついにスーパーコントラクションの90%削減に成功。その後も分子レベルで進化に磨きをかけ、アウトドアジャケットに応用できる素材を開発した。それが今回のムーンパーカで用いられた「ブリュード・プロテイン」である。
それは微生物を介して人工的に生み出す構造タンパク質で、化石資源と違って枯渇することがない。環境に限りなく優しい、まったく新しいサステイナブル素材の誕生だ。
「地球の環境問題は、人間社会の平和に直結する問題です。気候変動や温暖化が進めば、農地が劣化して食べ物が作れなくなり、人が住める場所も減っていく。これが紛争やテロに繋がる。この製品の研究開発は、地球平和のための活動なんです」(関山氏)。
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