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2019.09.01

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ルノア創設者が語る「ゲルノット・リンドナー」を立ち上げたワケ

クラシックで繊細なデザインのフレームで世界中のメガネ好きを虜にした、ルノアというブランドがある。その創設者が2017年に立ち上げたのが、自身の名前を冠したこのゲルノット・リンドナーだ。御年78歳。故郷でメガネ作りの理想を追求し続ける男の、情熱に触れた。
ゲルノット・リンドナーとは?
ドイツのメガネ業界で50年以上のキャリアを積んできた、ゲルノット・リンドナー氏が手掛けるアイウェアブランド。2017年、初となるスターリングシルバーのコレクションを発表。クラシックなデザイン、洗練されたプロポーション、アンティークの豊富な知識にもとづくディテールの作り込みは圧巻のひと言。また、デザイナーである自身と工場の間に中間業者を入れずにコストダウンを図り、最終的な価格を抑えているという点でも業界の注目を集めている。

「不可能とされてきた“シルバー”で作りたかったんだよ」

ゲルノット・リンドナー氏 24歳でアメリカン・オプティカルに入社する。20年間勤務したのち、独立。’91年に自身初のブランドとなるルノアを立ち上げる。
CEO ゲルノット・リンドナー氏 1941年、旧オーストリア(現ドイツ)・シュタインヘーリング生まれ。24歳で当時世界最大のメガネおよび光学品メーカーだったアメリカン・オプティカルに入社する。エンジニア、教育係として20年間勤務したのち、独立。’91年に自身初のブランドとなるルノアを立ち上げる。普遍的かつ優美なデザインのメガネが高く評価され、世界的な人気を博す。2017年に自身の新たなブランド、ゲルノット・リンドナーをスタート。アンティークアイウェアの世界的な収集家でもある。
なぜルノアを離れたのか。ゲルノット・リンドナー氏に最初にたずねたかったのはそこだった。
「2010年を過ぎた頃から、いろんなことが重なったんだ。ドイツの人件費高騰。熟練した職人たちのリタイア。それに伴って、需要に供給が追いつかなくなった。中国生産のフレームの台頭という側面もあったね。もう、続けるのは難しい。いったんは僕自身も引退の時期かな、と思ったよ」。
その当時、リンドナー氏は既に70歳を迎えていた。引退が頭をよぎっても不思議じゃない。しかしそうはならなかった。今もこうして日本で商談中である。その情熱の源は、幼い頃に出合ったアンティークのメガネにある。
「祖母が掛けていたメガネを美しいと思ったのが、最初のことだ。そして14歳のときには蚤の市やアンティークショップを巡ってメガネを買い込み、いっぱしのコレクターになっていたよ。もちろん周りには、そんな趣味の友達はひとりもいなかったけどね(笑)」。
つまるところリンドナー氏のメガネに対する情熱は、今も14歳のときのままなのだ。アンティークのような美しいメガネを作りたいという、簡潔かつ強靭な哲学である。
「ルノアではたくさんの美しいメガネを作ることができた。素材は金無垢、アセテートからチタンまで。でも、実現できなかったこともある。それはスターリングシルバー(※1)で作ることさ」。
スターリングシルバーは、メガネのフレームには不向きな素材といわれてきた。端的に言えば柔らかすぎる。フレームを作るうえで十分な剛性とバネ性を持たせることが困難だからだ。
「不可能とされてきたシルバーで、なんとしても作りたかったんだよ。劣化しにくくて、金属アレルギーも少ない。何より、シルバーは美しい光沢と色みを備えている。ヨーロッパでは“ムーンカラー”とも呼ばれる高貴な色なんだ。そう、空高く輝く月のようにね」。
2012年にルノアを退いたのち、リンドナー氏は故郷オーストリア・チロル地方にデザインのアトリエを構えた。そして長年仕事をともにしてきたドイツ人技術者のヘルムート・ミッテルバウアー氏と、シルバーのメガネ作りの研究を続けていたのである。
「足掛け3年の時間がかかった。出来上がったときは感動に震えたよ。とにかくヘルムートのおかげさ。彼以上の職人に出会ったことはないね」。
’17年、ついにスターリングシルバーで作られたゲルノット・リンドナーのコレクションが発表された。積年の夢が実現したのである。もちろんブランドとしての歴史は浅い。しかしながら、ハンドメイドによる美しいフレームは瞬く間にメガネ好きの間で話題に。現在はヨーロッパや日本の高感度なアイウェアショップからの注文が引きも切らないという。
「モノ作りの現場は、いずれコンピュータとロボットだけになるといわれている。でも、このメガネを見てほしい。これこそ人間の手でしか作り得ない造形だと思わないか? 今は600年前とも800年前ともいわれている“メガネのオリジン”に近いものを作ろうと考えているんだ。ごく小さな、ラウンド型のメガネをね。いちばん古くていちばん新しいデザインのメガネを作ってみたいんだよ」。
 
※1 スターリングシルバー
銀が92.5%、強度を上げるための銅やアルミが7.5%という割合の銀合金のこと。貴金属業界では「シルバー925」とも表記される。スターリングとは「本物の」「純粋の」という意味。
加瀬友重=編集・文


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