PREMIUM BRAND × DAILY STYLE
VISVIM ビズビム
37.5歳から築くべき、プレミアムブランドとデイリースタイルのいい関係。そのヒントを導くフォトストーリー。
この赤いTシャツが天然染めと聞いて驚いた。「天然染料=優しい色合い」と勝手に思い込んでいたからだ。ラックという虫から抽出した染料を使うインド発祥の技法は、古くは友禅などでも採用されていた伝統的なもの。漬けては乾かし、空気に触れさせ、染料が酸化することで色が定着していく。手間はかかるが、ほかにはない独特の風合いが生まれる。
ボディは、乾燥機で乾かしたようなドライタッチでウェイトを若干薄くしたコットン製。「ジャンボTEE」というモデル名どおりのゆったりシルエットが、今の気分にぴったりだ。
ヴィンテージを再現するデニム特有のクリエイティブは、時間を逆行するモノづくりの旅。ビズビムでその究極を思わせる1本を見つけた。
長さの異なる繊維をランダムにブレンドし、ヴィンテージらしい不均一なムラや凹凸を表現。縫製にも数種類の糸を使い、はき込むうちに絶妙な違いが生まれるタネまで仕込んである。これをはく人は、先述の旅の続きを楽しめるって寸法だ。
ただし、すべてが“昔に忠実”では古くさいだけだから、シルエットは今っぽいスキニータイプを採用。そこでバックポケットに手を入れたら、ジッパー付きのコインポケットの存在に気が付いた。なるほど、これもありがたい進化である。
女性は「かわいい!」という直感でモノ選びをするのだろうが、我々はちと違う。「かわいい!」「格好いい!」にもうひとつ、理屈が欲しくなる。たとえばこんな……。
リネンアッパーに見られる2つの柄は、天然藍で染めたブロックチェックと、コチニール(虫)から抽出した染料を用いた赤い水玉。それらを縁取るパイピングには、中国南西部の少数民族が手織りした天然草木染めの生地を使う。スエードのフットベッドは滑りにくく、素足なら気持ち良し。アウトソールはビブラム製で、苔むす場所でも滑り知らず。ここまで理屈が揃えば、文句なし。
ゆらぎ、滲み、ムラがある。古いベースボールシャツを下敷きにした一枚は、赤と黒のストライプが不思議な力で迫ってくる。
使っているのはやはり天然染料。束ねた綿糸を壺の中の染料に浸しては絞り、それを繰り返すことで少しずつ色を付けていくかせ染めを採用することで、深い色みが表現されている。それをビズビムは、すべて手作業で行う日本の職人に依頼する。存在感のある服と、そうでない服の違いは、手間の量に比例する。
背中の刺繍は、ビズビムのデザイナー・中村ヒロキさんが描いたイラストがベース。ここ数年でこうした“作品”も増えてきて、彼のクリエイティブは今や、いかなるラグジュアリーブランドのディレクターも真似できない域に達している。
つまるところ「比類ない」のだが、それが背中の「Peerless」の日本語訳でもある。不均一にスラブが織り込まれた柔らかなレーヨン素材のオープンカラーシャツ。こんなのをさらりと着て、ふわりと風を切って歩きたい。
斜めにせり上がったラムレザーのボトムがアイコニックなバックパックは、「ビズビムといえば」な傑作。そこに今季、2泊3日くらいは平気な22LのXLサイズが仲間入り。15インチまで収納できるPCケース、オーディオプレーヤーの専用ポケットにイヤホン・ポート。ブランド設立当初からの人気モデルの使い勝手については、その歴史が何よりの証明だ。
このデカいのを背負ってどこへ向かおうか?正直、どこへでも行けるよ。だって、コーデュラ社の強化ナイロンは頑丈で、たとえジャングルに持ち出したってへっちゃらなのだから。
清水健吾=写真 菊池陽之介=スタイリング AMANO=ヘアメイク