最終形態は、中華屋の老夫婦?
こうしたスタンスを貫いてきた結果、最近では少々の口論くらいでストレスを感じることはなくなったという。それどころか、ときにはその状態を「楽しむ」余裕すら生まれているようだ。
サチコさん「周囲に誰もいないときは、けっこう激しめの口調でやりあっています。でも、段々と口喧嘩の波長が合ってきて、そのうち悦に入るというか、楽しいとすら感じることもある。口論も、ひとつの芸みたいになっているなと感じるときがあるんです」
聖貴さん「家族でやっている街の中華料理屋さんで、厨房で言い合いながら仕事してる老夫婦とかいるじゃないですか。あんな感じですよね。あれって、たぶん当人たちは喧嘩って意識はなくて、何なら互いにそのやりとりが心地良くなっているんじゃないかな」
それは、たとえ一時険悪になろうとも互いの主張を飲み込まず、壁を壊してきた夫婦だからこそ到達できる境地なのかもしれない。
聖貴さん「ただ、ライブのリハーサルとかでたまに、家庭内での口調が出てしまうときがあって、周りのスタッフはヒヤヒヤするみたいです。打ち上げで『リハのとき、サチコさんに“おめえ”とか言われてましたけど、大丈夫ですか……』みたいな感じで(笑)。でも、そういうバトルも含めたドキュメンタリーとして、人前で晒せるようになったら面白いですよね。喧嘩してても良い空気感が出せる、そんなユニット。もしかしたら、中華屋の老夫婦が僕らの最終形なのかもしれないですね」

ともにクリエイターという特殊な夫婦関係。世間一般の夫婦より、喧嘩の火種は多い。しかし、フエニカは衝突を恐れない。ぶつかった先に生まれる新しい音楽への期待感が、衝突によるストレスを凌駕しているのかもしれない。
そうやってふたりで作り上げた音楽によって、また心を通わせる。そのつど、絆は強くなっていく。ふたりを見ていて、そんなふうに感じた。
[取材協力] huenicahttp://huenica.com/林和也=写真 榎並紀行(やじろべえ)=取材・文