ラグジュアリーブランドのアイコンは特別だ。長い歴史に裏打ちされた誇りや矜持が覗き、普遍的な愉悦をもたらす唯一無二の存在。そこに隠されたストーリーを紐解く。
「モノグラム」に込められた親子の絆
“モノグラム”という単語を辞書で調べると「氏名の頭文字など2つ以上の文字を組み合わせて図案化したもの」とある。商標、マーク、作品の署名などに用いられ、絵画の隅に書かれた組み文字もまたモノグラムである。
つまり、この条件さえ満たしていれば、モノグラムという単語はあらゆるものに当てはまる。しかし、この単語を耳にすれば誰もが“あのデザイン”を思い浮かべるはずだ。
そう、ルイ・ヴィトンの「モノグラム」である。
誕生したのは1896年。創業者ルイ・ヴィトンの息子、ジョルジュ・ヴィトンの発案である。自分たちのブランドがひと目で分かる“象徴”を作ろうと試行錯誤を続けていた彼が、何枚ものスケッチを描き、辿り着いたのが「モノグラム」だったのである。
花をモチーフにした複数の紋様に父のイニシャルである「LV」を溶け込ませてデザインした幾何学パターンは、ジョルジュの想い通り、ブランドのアイコンとして成長していく。
みんな大好き「モノグラム」、その証拠
ベージュと淡いマロンカラーで表現された「モノグラム」は、「スティーマー・バッグ」や「キーポル」をはじめ、あらゆるアイテムに採用されていく。
そして「モノグラム」は、ブランドの成長とともに多くの人々に愛されていくように。それを象徴する出来事が「モノグラム」誕生100周年の1996年に起きる。
当時、ファッションの最先端を走っていた複数のファッションデザイナーと記念プロダクトを作ったのだ。
ヴィヴィアン・ウエストウッドの遊び心溢れるバムバッグやヘルムート・ラングのDJケース、マノロ・ブラニックのシューズトランクなど、どれもまったく古びて見えないのは、アイテムのデザインもさることながら、モノグラムのデザイン自体が普遍的だからといえるだろう。
そして、今のように“コラボ全盛”ではない時代に、これほどの大物デザイナーたちが協力したという事実もまた、「モノグラム」が愛されていることの証拠なのだ。
今、いちばん話題な「モノグラム」は?
そして今。ブランドのメンズラインを率いるのは、アーティスティック・ディレクターのヴァージル・アブローである。彼の手によって「モノグラム」はさらに表情豊かに進化している。冒頭のターコイズブルーのバッグやイエローなど、伝統と革新が共存するプロダクトは相変わらず魅力的で、きっとこの先も古びることはない。
「モノグラム」の威光は陰ることなく、いつまでもまばゆい光を放っているのだ。
高橋絵里奈=写真 松平浩市=スタイリング 菊地 亮=文