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2019.03.18

あそぶ

「いいレストラン」の条件って? 熊谷隆志プロデュース「アボセタ」で朝食鼎談

ファッションを軸にライフスタイル全般への好奇心が止まらない。高い感度と鋭い観察眼を持った熊谷隆志が日々直感する瑞々しい「お洒落」をモノ・コト・ヒト、全方位的にピックアップ。誰に何をいわれようが、オーシャンズ世代の先頭をただ突っ走るオトコを、今月も追いかけてみた。
熊谷隆志プロヂュースレストラン「AVOSETA (アボセタ)」
僕が初めてプロデュースするレストラン「アボセタ」が、昨年12月、六本木にオープン。今回は元祖レストランプロデューサーの山本宇一さんと、気鋭のレストランプロデューサーの関口正人さんをアボセタにお招きし、いいレストランとは何か、朝食を食べながら談義しました。
山本宇一 ●駒沢「バワリーキッチン」、表参道「ロータス」、原宿「モントーク」など多数のレストランを手がけた空間プロデューサー。
山本宇一さん
やまもとういち●空間プロデューサー。1997年オープンの駒沢「バワリーキッチン」を皮切りに、2000年に表参道「ロータス」、’01年に原宿「モントーク」を作り、東京のカフェ文化を牽引。その後も約70軒のレストランをプロデュース。’13年に手掛けた駒沢のコーヒースタンド「プリティシングス」も人気。
 
関口正人●店舗やブランドのプロデュース、ブランディングなどを行う会社「シンク グリーン プロデュース」代表取締役。
関口正人さん
せきぐちまさと●店舗やブランドのプロデュース、ブランディングなどを行う会社「シンク グリーン プロデュース」代表取締役。飲食のほか、ホテルやリゾート、オフィス、住宅なども手掛ける。2018年にオープンした「渋谷ブリッジ」をプロデュース。施設内のマスタードホテルも話題に。
 
熊谷 ついに僕も飲食業界に足を踏み入れてしまいました(笑)。まずは先輩方にアボセタの第一印象を聞きたいんですが。
山本 空間をゆったり使っていて清々しいねー。照明や家具、カトラリーなど、ディテールにもこだわりを感じる。
関口 この空気感が熊谷さんぽくなくていい。あ、褒め言葉ですよ(笑)。作り込んでいない、さらっとした空気感。
熊谷 特に、女性にとって居心地のいい場所にしたいと思って内装を考えました。ホテルやカフェをたくさん見て回ったし、ここ数年は関口さんにいろいろなレストランに連れて行ってもらって飲食のトレンドを教わったので、いつの間にか積み重ねができていた。とはいえ、いざ店を作るとなると、料理人やフロアスタッフのことも考えたり、やることがありすぎて大変。
「ハニーバタートースト&ベーコン 目玉焼き」/AVOSETA アボセタ
定番朝食メニューは、はちみつとバターがとろける「ハニーバタートースト&ベーコン 目玉焼き」900円
山本 飲食の仕事って考えることがたくさんあるよね。内装、メニューから始まって、備品、サービス、どういう絵を飾るか、どういう音楽を流すかまで。そこにさまざまな人間が関わってくるから、総合的な仕事だと思う。これだけ広いレストランだとさらに大変だろうな。
熊谷 朝昼夜でメニューが違うから、それぞれのアプローチも考えなくちゃいけないしね。でもファッションで使う脳みそと、飲食で使う脳みそが刺激し合って、いい具合にすみ分けができています。
山本 熊ちゃんの脳みその筋肉は僕と違うよね。僕はどうしても、ストーリーから入るんだけど、熊ちゃんはさまざまなものを見てきたうえで、感覚的に捉えることができる。
関口 熊谷さんは物が大好きで、ご自宅や今まで手掛けたショップには、センスのいい物をたくさん飾って空間を作っていた。でもここは、天井の高さや景色の抜け感を活かして、あえて物を置かずに空気を作ったんだなと感じました。
 

レストランは作っただけでは終わらない

熊谷 内装は沖縄県在住の画家・齋悠記(さいゆうき)さんの絵がインスピレーション。そこからすべてを決めました。
関口 僕はベースが建築なんです。だからまず場所を決め、建築・空間を考える。そこにコンセプトや人を組み合わせていくという順番ですね。
山本 考え方はさまざまだけれど、やっぱり店を作るのって楽しいよね。
熊谷 楽しい! でも、かっこいい空間を作っただけでは終わらないのがレストランプロデュースの難しいところ。いいレストランって何ですか?
山本 レストランは出来上がってからがスタート。いい店は矛盾がないんだよね。たとえば、おばちゃんがやっている店で、店内はそれほどきれいじゃないけど、値段は安くて味もおいしい。それって矛盾がないでしょ。あれ、なんか違う? と違和感を感じたときから店の評価は下がる。料理、スタッフ、内装などすべてに矛盾がないことが大事。
「焼き椎茸と五香粉のお粥 スプラウトとお新香」/AVOSETA アボセタ
朝食にぴったりなお粥を、香り高い風味にアレンジ。疲れ気味の朝におすすめ。「焼き椎茸と五香粉のお粥 スプラウトとお新香」850円
関口 僕が思ういいレストランの条件は、まず一皿入魂でとにかくうまいものを出す店。それから、食事はまあまあだけどすごく感じが良くて、名前も覚えてくれて、人と人との接点も作ってくれて、そこのコミュニティに入りたいなと思わせる店。そして空間とか眺めとか、デザインがいい店。食事、人、空間の三拍子が揃っていたら素晴らしいけれど、なかなかそれは難しいから、そのときの気分で行きたい場所を選べばいいと思う。
熊谷 確かに。グリルチキンのゴルゴンゾーラソースが無性に食べたくなってバワリーキッチンに行くことあるな(笑)。
山本 日本だと、「うなぎを食べに行こう」とか先にメニューを決めることが多いけれど、海外だと、「今日はあのレストランに行こう」って店から決めることが多いんですよ。もちろんおいしいことが前提だけど、雰囲気も含めて味わいたいという考え方。アボセタはそういう使い方をされるんじゃないかな。
熊谷 うん、ぜひそういう店にしたい。
 

レストランの価値は常に変わり続ける

関口 物は完成すればある程度価値は決まる。でもレストランには、どこまで行っても完成しない面白さがありますね。理想を求めて常に作り続けなければならない一方で、理想という価値は時代とともに変化し続ける、終わりのないクリエイション。しかもそれを、自分ひとりではなく、多くの人と話し合って作っていかなくちゃいけない。そこが難しいけれど面白いところでもある。
山本 レストランってなんだか生き物みたいだよね。
関口 本当ですね。思ってもみなかったお客さんが来て、想像していなかったコミュニティが生まれたり、まったく違う使われ方をしたり。
山本 そういえば僕、バワリーキッチンを作るときに、当時大ファンだったキョンキョン(小泉今日子さん)がいつか来てくれるまでがんばろうと誓ったんだ(笑)。そうしたら2カ月後くらいにふらりと来てくれて、目標を見失ったんだよね(笑)。
イスラエル版目玉焼き「シャクシュカ(地中海風たまご料理)トースト添え」/AVOSETA アボセタ
イスラエル版目玉焼きは、野菜たっぷり。パンにつけていただく「シャクシュカ(地中海風たまご料理)トースト添え」1000円
熊谷 アボセタには、シャルロット・ゲンズブールやクロエ・セヴィニーに来てほしいな(笑)。
山本 そっち系?(笑)。でも芸能人に限らず普通のお客さんにも面白い人はたくさんいるし、やはりスタッフはお客さんともっと話すべきだと思う。だって不思議じゃない? 勝手に場所を選んで、勝手に名前をつけて、勝手にオープンして、そこに知らない人が次々に来てくれるんだよ。だからなぜ来てくれたのか、聞いてみたいじゃない。
関口 やはり人が好きな人にとっては、レストランのプロデュースは最高に面白い仕事だと思いますね。
山本 レストランって時折、一瞬のグルーヴに出合えるんですよ。料理がいいテンポで出て、スタッフが完璧に動いていて、お客さんのテンションがぴたりと合っていて、みんながすごく楽しそうにしている瞬間。そのグルーヴを一度味わうと、また経験したくなる。そのために何をしたらいいんだろうと考えながら、店をやっている気がする。
熊谷 僕もグルーヴに出合いたい。レストランのプロデュースはすごく面白い仕事だし、やるからにはヒットさせたいです。先輩方、今後ともご指導よろしくお願いします(笑)。
左から関口正人さん、山本宇一さん、熊谷隆志さん。/レストラン「AVOSETA(アボセタ)」
レストランをプロデュースするおじさんが3人並んで、アボセタで朝食中。バックはすべてのインスピレーションとなった齋悠記さんの絵。
AVOSETA アボセタ
「アボセタ」はコーカサス地方で発見されたミツバチの名前に由来。料理はこだわりの生産者から仕入れた素材を使い、自然派を中心としたワインは300種以上。デザートはビーガンメニューが揃う。朝から夜まで、一日を通して利用できる。
※メニューが変更になる場合がございます。
住所:東京都港区六本木6-9-1テレビ朝日1Fけやき坂沿い
電話番号:03-5843-0256、03-5843-0258(予約専用番号)

営業:8:00〜11:00(モーニングタイム)
11:00〜15:00(ランチタイム)

15:00〜17:00(ティータイム)
17:00〜23:00(ディナータイム、22:00LO)

不定休
 

熊谷隆志(くまがいたかし)
1970年生まれ。渡仏後、’94年スタイリストとして活動開始。’98年以降はフォトグラファーとしても活躍。同時にクリエイティブ・ディレクターとして自身のブランド、ネサーンス、ウィンダンシーを手掛けるほか、さまざまなブランドやショップのディレクションにも携わる。ファッション、クラフト以外に飲食の分野にも進出し、カフェ・カンパニーのクリエイティブ・ディレクターも務める。趣味はサーフィン。グリーンライフにも造詣が深い。

山本雄生=写真 町田あゆみ=編集・文


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