PREMIUM BRAND × DAILY STYLE
HERMÈS エルメス
37.5歳の日常に寄り添う、プレミアムブランドのクリエイション。今月はエルメスの最新作にフォーカスして、その魅力に迫る。
エルメスといえばレザー。エルメスといえば馬具。180年以上のメゾンの歴史と旨みが、このTシャツには凝縮されている。極上のカーフをとことん薄く鞣すことで手に入れたサラッとした肌触りとフワッとした着心地に、これまでのレザーの概念はクルッと覆る。胸には乗馬で使う“はみ”をモチーフにしたグラフィックをプリント。いいものこそ日常に。このカジュアルな姿勢こそ、本物のラグジュアリー。
オーバーサイジングで仕立てたこのコットンコートは、できれば半袖の上に羽織ってもらいたい。なぜか。ライニングのラムレザーの気持ち良さを肌で感じてもらいたいからだ。素材が持つイメージからすれば、表裏は逆。しかし、コペルニクス的転回でまったく新しい価値を引き出した。コート自体が持つ独特なボリュームも、その賜物である。
濃すぎず、薄すぎず。スーツに採用されたブラウンは「ショコラ」と名付けられている。エルメスの色の世界は深淵だ。きわめてスタンダードな3Bジャケットにイージーウエストのパンツのスーツは、細番手の糸で織ったコットン製。その光沢と先の色が“普通ではない”存在感を放つ。そして、インナーのシャツへ目を向ければ、織柄でクローバーが繊細に。クリエイションへの探求もまた、普通ではないのだ。
「シンプルなのに格好いい」。ファッションにおける男の理想を、このブルゾンはかなえてくれる。シボが際立つラムレザーの銀面は粗野な魅力を湛えつつ、深いグリーンが適度な品を保つ。ジップのテープはポップなアイキャッチとなり、若々しさも運んでくる。エルメスが掲げた2019年のテーマは「夢を追いかけて」。すべてのオッサンに夢を与えてくれる一着だ。
ライトグレーのスエードブルゾンに浮かび上がるのは、16世紀インドで栄えたムガル帝国の自然にインスパイアされた「マハラニの庭」という柄。その立体感ある見た目からエンボスのように思うが、実はこれ、プリントなのである。素材が切り替わる右側は色も変わるが、それもプリントによるもの。ため息が出るほど美しい職人技に、道行く人もきっと振り返る。
Vガゼット付きのスウェットシャツか? 妙な親近感を覚えて近づいてみると……ポリエステルベースの生地はワッフル状になっており、ユニークな立体感を放つ。そして、アンリ・マティスの絵を思わせるグラフィックはピクセル画みたいに表情を変える。ワッフル生地を平らに伸ばしてからプリントし、再びワッフル状に加工する手間が生んだ、トリックアート的ワードローブである。
清水健吾=写真 荒木大輔=スタイリング AMANO=ヘアメイク