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計算された完璧なバランス。不動の定番「椿屋ブレンド」


続いては、店頭でも愛され続ける不動の定番「椿屋ブレンド」。飲みやすさを追求した一杯は、万人の舌を魅了する。ただし、もちろん“棒球”ではない。
「苦味のあるブラジルをベースに、コロンビアの甘味と力強さ、タンザニアのすっきりとした酸味を加えています。これにより、バランスの良い味わいとともに、繊細な立体感もしっかりと表現しました。後味には気品と爽やかさも感じる、自慢の看板ブレンドです」。
配合のほとんどはブラジルとコロンビアが占め、タンザニアの割合は10%ほど。そのわずか10%が、風味にレイヤーとアクセントを作る。コーヒーの世界の奥深さだ。
 

あなたはビター派? それともライト派?

さらに椿屋珈琲では、ビター派に向けて「深煎りブレンド」、ライト派に向けて「浅煎りブレンド」という2種類の豆も用意している。

「深煎りブレンドは、私たちがチョコレートケーキの提供を始めた際、それとペアリングする一杯として開発された豆。チョコレートにも負けない力強い味わいで、どっしりとした口当たりと苦味、ビターチョコレートにも似た香ばしさを楽しめます」。
実は豆には、浅煎りに適したものもあれば、深煎りに適したものもあるとか。深煎りブレンドのベースとなっているのは、インドの「プランテーション」という珍しい豆。深煎りとの相性は抜群だ。
「一方の浅煎りブレンドは、グアテマラをベースにした香り豊かなコーヒーです。フルーティな甘味と酸味は、浅煎りですっきりと仕上げるのにぴったり。女性にも好まれるコーヒーなので、奥さんとの食後のティータイムなどにおすすめですよ」。
 

こだわりの一杯を紡ぐための「自家焙煎」

そんな椿屋珈琲のブレンドだが、美味しさのカギを握るのが焙煎だ。以前は焙煎された状態の豆を仕入れていたが、現在はすべて自家焙煎。どうして方針を転換したのか。
「理由のひとつは、豆により一層こだわりたかったから。焙煎された豆を仕入れる場合、豆そのものに対して要求できることはどうしても限られてしまいます。銘柄や等級は指定できますが、同じ等級のなかの良い豆と悪い豆が混ざることは防げません」。
これでは理想の味は出せない。高品質な豆だけをピンポイントで仕入れ、それを的確に焙煎するべく、自家焙煎へと舵を切った。

しかし、焙煎の道は一筋縄ではいかない。焙煎士はその日の天候、気圧、豆一つひとつの状態などを見極め、豆の焼き加減を的確に変えるのがミッションだ。その精度を高めるため、椿屋珈琲では驚きのシステムを導入している。
「全国47店舗で毎日、抽出したコーヒーに溶けている粉の濃度を測り、試飲の感想とともに焙煎士へとフィードバックしています。焙煎士はこうして集まったデータを参考に、焙煎の加減をコントロールする。新鮮なリアルタイムのデータなので、季節の影響や焙煎士のわずかな勘のズレなどにもすぐさま対応できます」。
焙煎士の繊細な仕事を支えるために、各店舗のコーヒーマイスターがその腕と舌で援護する。椿屋珈琲の一杯は、その日々の積み重ねによって生まれている。
自分と向き合う静かな時間、お気に入りのコーヒーを淹れ、複雑な風味を丁寧に味わう。舌で転がせば転がすほど、豆の新たな個性を見つけられる贅沢。椿屋珈琲のブレンドは、そんなひとときを演出してくれるはずだ。
佐藤宇紘=取材・文


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