誰しも思い入れのあるスニーカーの1足や2足はあるもの。復刻ばやりの昨今、再び日の目を見たモデルも少なくないとはいえ、たいていはセピア色の想い出の中だ。いまだスポットライトを浴びていないそんな1足を勝手に復刻リクエスト!
スニーカー屋のプライドが選ばせた一足
「21世紀を目前に控えた日本では裏原ブームが巻き起こっていました。店のスタッフがトレンドをリードする時代。そんな時代に一躍脚光を浴びたのがランニングシューズの『AIR PRESTO(エア プレスト)』でした。宇多田ヒカルさんが履いて爆発的にヒットした『AIR ZOOM HAVEN(エア ズーム ヘイブン)』も懐かしいですね」。
同時期、NIKE(ナイキ)からは「AIR TERRA GOATEK(エア テラ ゴーテック)」という一足もリリースされる。
吉祥寺のスニーカーショップ「SKIT(スキット)」のオーナー・鎌本勝茂さんが今回、復刻希望するのがそれである。
なんと、色違いで5足も手に入れたという思い入れのある1足だ。
「スニーカー屋の矜持といいますか(笑)。そのムーブメントに乗りたくなかったんです。といって、やっかみだけで選んだわけではありません。『エア テラ ゴーテック』はACGが洗練の方向に舵を切った頃のナイキを象徴する一足。パッと見はナイキっぽくない。グラフィカルなサイドビューもさることながら、“いなたい”から洗練へ向かうその過渡期のさじ加減は今見ても絶妙だと思います。イノベーターならではのテクノロジーもたっぷり注入されています。ソールは羊の足をモチーフにした意匠で、防滑性を考えたものなんですよ」。
ゴーテック同様、「AIR HUMARA(エア フマラ)」「AIR TERRA HUMARA(エア テラ フマラ)」もすでに復刻された今「十分勝算がある」というのが鎌本さんの見立てだ。
「気持ち細身のシルエットは履く人を選ぶことなく、今どき感が出せるバランスだと思います」。
確かに! これは復刻を待ちたい傑作である。
PROFILE
鎌本勝茂●1978年青森県生まれ。高校卒業と同時に上京、いくつかの店でスニーカー販売を手掛け、2001年、吉祥寺に一号店をオープン。そのたしかな見識眼で多くのスニーカーファンを虜に。映画『スニーカーヘッズ』にも出演した。現在は大阪、仙台、福岡にも出店。
竹川 圭=取材・文