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美味しさの追求にゴールなし。焙煎士の流儀
このように、わずかな違いも見逃さないコーヒーという生き物。その味を支える大役を担っているのが、村澤さんのような焙煎士だ。その日の天気、豆の状態、焼き色、香りなどを確認しながら、ベストな焼き加減を見極める。少しでも間違えれば、豆は簡単にヘソを曲げてしまう。

焙煎前の生豆。ここから焙煎することで、お馴染みのブラウンの色になる
「豆は工業製品ではないので、1粒として同じものはありません。同じ時間、同じ火加減で焙煎しても、仕上がりは毎回別ものになります。1回の焙煎にかかる時間は10分から20分ほどで、あっという間に過ぎていく。毎回、真剣勝負ですよ」。
たとえば、冬には豆も冷たくなっていて、暖かい時期と同じようには焙煎できない。細かな調整で安定した品質を創りだすのも、焙煎士の腕の見せどころだ。

必要なのは膨大なトライ&エラー。焙煎士になって3年目になる村澤さんは、これまでの膨大な焙煎の記録を、1回ずつノートに書き記してきたという。どの豆を、どのように焙煎したら、どう仕上がったか。それでも「一人前の焙煎士になるにはまだまだ」と笑う。
「美味しさの追求にゴールはありませんから。どこまでも続く道を歩いているような感覚ですよ。焙煎を繰り返せば繰り返すほど、そう実感させられます。もっと勉強と経験を重ねて、より美味しいコーヒーを皆さんに届けていきたいですね」。
どっさりと積み上げられた、黒いシミのついたノート。1冊目の表紙には「15.10.5〜」と書かれている。ゴールなきノートはこれからも、日付を更新していくのだろう。

村澤さんだけではない。猿田彦珈琲のブレンドは、豆の栽培から選別、配合まで、そこに携わる人びとの情熱の結晶だ。そのホットな味わいを、ぜひ楽しんでみてほしい。
知識を知れば知るほど、楽しみ方も広がっていく。コーヒーの世界は奥が深い。
【取材協力】
猿田彦珈琲
佐藤宇紘=取材・文


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