平成の歌姫の引退劇に炭酸水の爆発的なヒットなど。 2018年も多くのトレンドが生まれたが、 2019年は何が話題になるだろう? オッサンが知っておくべき流行予測を7人の識者に依頼した。
第5回はラジオDJ・ジョー横溝さんによる音楽にまつわるヒット予想!
2019年の音楽業界のヒット予想を書こうとしているが、先に言い訳をしておくと、筆者はヒットという類のものから縁遠いミュージックライフを送っている。自分が好きなものや、「こいつはホンモノだ!」「これは音楽の新しい扉を開く!」と思ったものばかりを聴いている。
ただ、2018年のヒット作を改めて見てみると、ヒットする下地はしっかりとあり、それが何かのきっかけで爆発したのだということがわかる。つまり、突然や偶然ではなく、ヒットするための下地は気が付かないだけで必ずどこかに隠れているのだ。
例えば2018年の紅白歌合戦に初出演を果たしたあいみょん。アメリカの音楽業界でバンドシーンは退潮の一途で、ソロアーティストの活躍が顕著だ。その流れは当然日本の音楽界にも波及していて、ソロアーティストブームがそこまできていた中でのヒットだった。
また、伝説のバンド・QUEEN(クイーン)を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットも予感はあった。バンドシーンが停滞する中でバンドが活路を見出したのは“ノスタルジー商法”だ。
筆頭はU2だが、彼らのようなバンドは、全盛期に青春を過ごした世代をターゲットに据え、過去のヒットアルバムの再現ツアーを行うことで商業的な成功を勝ち取っていた。
でも、こうしたことができるのは、バンドが現存している場合に限る。バンドが現存していなければ、映画などであの素晴らしい日々を追体験するしかない。リアルタイムでその栄光を見ていた世代にとって、スクリーンで再現される、もはや現実では体験することができない自分の青春時代のバンド音楽は、なんとも言えない甘美な想い出を蘇らせてくれる。そういう意味で、『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットもやはり予想できたと言える。
前置きが長くなったが、ヒットを予測するには、音楽業界にどんな下地があるのかを見る必要がある。それを踏まえつつ、今年のトレンドを3つ挙げてみよう。
[2019年の音楽はこうなる!]
①「PICKUP MUSIC」というコミュニティが世界的トレンドを生み出す!
②ついにインスタグラム発のアーティストが出現する!
③平成最後の年はノスタルジックなオルタナティブフォークが求められる!
①「PICKUP MUSIC」というコミュニティが世界的トレンドを生み出す!
世界的なR&Bブームの到来から、すでにある程度の時間が過ぎた。このトレンドは変わらないが、シーンには新たな動きが出てきている。筆者が注目しているのが、SAM BLAKE LOCKというギタリストが運営している「PICKUP MUSIC」というサイトを中心としたLAを拠点とするコミュニティだ。
このコミュニティではR&Bやチルエレクトロがメインストリームだが、ここに集まるアーティストやサウンドが2019年、音楽シーンを席巻する予感がプンプンしている。既にこのシーンからトム・ミッシュが世界レベルで活躍をしている。
またマテウス・アサトというギタリストもギター好きの間では既に大きな話題になっている。そのコミュニティにグラミー賞受賞アーティストでもあるスナーキー・パピーなどがジョインし始めているという。彼らは動きも早く、あっという間に世界的なトレンドを生み出しそうだ。
②ついにインスタグラム発のアーティストが出現する!
「PICKUP MUSIC」をはじめとするコミュニティを見ていると、共通する手法がある。それが、SNSの活用だ。最近は主にインスタグラムが使われ、プレイヤーたちは30秒ほど演奏をインスタグラムにアップしてフォロワーを増やし、そして、告知を重ねながら大きな会場でのライヴを行う。そんな試みを繰り返しているのだ。
フェイスブック、ツイッター、ユーチューブといったSNSやネットメディアを使って大ヒットを生み出したアーティストはすでにいるが、インスタグラムはまだいないようで、2019年はついにインスタグラム経由で大ヒット曲を生み出す新人アーティストが出現しそうだ。
ポイントは「インスタ映えミュージック」ということになるのだと思う。
③平成最後の年はノスタルジックなオルタナティブフォークが求められる!
ただ、①と②の流れが2019年に日本を席巻するかは微妙だ。
日本独自なものとしては「平成の終わり」という大きな出来事。昭和生まれの人間は、「昭和はさらに遠くになりにけり」というノスタルジーに浸るはずだし、平成生まれの人間は、初めて時代の終焉に立ち会うことで、やはりノスタルジーを感じるはずだ。
かくして日本全体がノスタルジーに浸るなか、注目されるのが“フォーク”だとにらんでいる。時代に蔓延するノスタルジー感と、時代が変わるあわただしさ、その中で人々は心に寄り添う音楽を無意識に求めてしまうものだから。
心に寄り添う音楽となれば、やはりフォークソングの出番。とはいえ、1970年代の「神田川」的なフォークソング・リバイバルとは、違う気がする。日本の音楽業界では言葉のカロリーだけが異様に高い応援ソングが溢れていて、その手のエモい言葉には食傷気味だと思う。
なので、言葉のセンスも、音のセンスも、2019年的なものが受け入れられる気がしている。
個人的な2018年の邦楽ベストアルバムは折坂悠太『平成』とロットバルトバロン『HEX』。ともに心に寄り添うノスタルジックな音だが、無国籍であり、かつ多国籍で、閉ざされた生活だけを謳った70年代フォークとはまったく違うオルタナティブフォークだ。今年も、こうした開かれた良質な音楽のヒットを願わずにいられない。
ジョー横溝(じょーよこみぞ)
音楽から社会ネタ、落語に都市伝説まで。興味の守備範囲が幅広く、職業もラジオDJ、構成作家、物書き、インタビュアーetc.と超多彩な50歳。ラジオのレギュラー番組として「The Dave Fromm Show」(interFM897)、著書に『FREE TOKYO〜フリー(無料)で楽しむ東京ガイド100 』など多数。