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「プロゴルファーになる」といっても、当然テストがある。
2014年にゴルフのプロになるための規約が変わった。
1. アマチュア時代にツアートーナメントで優勝する。
又は
2. プロテストに合格する。
2に関しては、16歳以上なら誰でも受験可能。
そういうことになったが、久古さんがプロを目指していた時代はそもそもプロテストを受けるための資格が存在した。その過酷な道筋を簡単に説明しておこう。
まずはどこかのゴルフクラブに所属する。このときは「練習生」と呼ばれる。その後、年に1回行われる「研修生入会テスト」に合格して「研修生」となったら、翌年4月以降半年の期間をかけてラウンドを繰り返し、スコアを積み重ねていく。全国をエリアに分け、エリアごとの4月から10月のトータルスコアを算出し、上位10人だけがプロテストを受けられる仕組み。
久古さんは「プロを目指そう」と思い立った翌年、地元の「レイクウッド総成カントリークラブ」に所属。翌年12月の研修生入会テストに合格し、そのクラブの研修生となった。この時27歳。
「ゴルフ場の所属とはいえ、要は小間使いなんです。掃除したり芝刈りしたりキャディーさんやったり。だいたい研修生って高校卒業してから来るケースが多いので、いちばん若い子で当時18歳でした。朝7時に出勤して、日中はゴルフ場の仕事をして、ラウンドするのは午後2時半から3時ぐらい」。
久古さんの所属する関東中部東地区には、名門・日本大学ゴルフ部の学生たちが多く所属していた。プロテストの受験資格を得られるスコア上位10傑に入るのは至難の技だった。
最初はプロになるための心構えができていなかった、と久古さんは振り返る。
研修生となって1カ月ほど過ぎたころの話。師匠から「朝練に来るように」と声がかかる。あの、スナック「ピエロ」の師匠である。何時に行けばいいか尋ねても「早く来い」としか言わない。

「最初は高校の部活の朝練ぐらいのイメージで、始業時間の1時間前、朝6時に行ったんです。そしたら、もう師匠がいて“『久古、遅いな』と。次の日はもう1時間早く、朝5時に行ったら、やっぱり師匠は来ていて『遅い!』と叱られました。それで私もムキになって、次の日4時に行ったらすでに師匠がいて練習している(笑)。チキショーと思って、その次の日は午前2時にゴルフ場に行きました。さすがに師匠はまだ来ておらず、1時間ほど球を打ったころに現れて、私の練習している姿を確認して帰りました」。
久古さんは言う。
「プロを目指すというのは並大抵のことではない。そのくらいの覚悟がないと無理なんだ、ということを僕に教えてくれようとしていたんだと思います」。
“何時から始めたら十分”とかいうことではないのだ。とにかく“とことんやる”ということ。それ以降は毎朝4時にゴルフ場に行き、練習する日々となった。
社会に出てからこの時点でおおよそ9年、周りの研修生よりも少なくとも7〜8歳年長だった久古さん、当時の暮らしぶりはというと……。
「12万円の給料をもらうと、まず家賃と光熱費、合わせて5万円を支払います。あとはガソリン代が1万円。残りは食費と消耗品。自分の自由になるお金でまず買っていたのは焼酎『大五郎』の4Lペットボトル。おつまみはデカいキムチ。辛いからガンガン飲めて早く酔っ払えるんですね(笑)」。
正直、バブル期を不動産業界で過ごした男の生活ではない。だが、「“プロゴルファーになる”っていう明確で強力な目標があったから、そちらを向いてさえいれば他のことは全然苦じゃなかった」と振り返る。
手も足も出なかったプロテストの受験資格を、研修生3年目にして初めて獲得。
師匠からは「オマエはもう歳なんだから、とにかく一発で合格しろよ」とプレッシャーをかけられていた。
「プロになれる確信はなかったけれど、なれるんだって思ってなくちゃやってられないですよね。努力の総量を他人と比べることはできない。“自分としてどれだけやったか”を自覚することでしか自信にはならない。なんの目安もないままテストに向けて自分の実力をどんどん上げていくしかなかった」。
でも、不思議と受かるような気はしていた。それだけの努力をしてきた自負があったし、なぜか過去、一発勝負には強かったから。

「3年目にプロテストの資格を得た僕は、一発で合格しました。その年、道具を一新したのがハマったような気がしていますが、なぜ受かったのかはよくわかりません。とにかくそれで師匠との約束を果たすことはできました」。
それが1996年10月の話。
【Profile】
久古千昭さん
1965年、千葉県成田市生まれ。26歳で初めてクラブを握り、脱サラの末プロゴルファー研修生を経て31歳でプロテスト合格。現在、「梶川・久古ゴルフアカデミー」主宰。プロゴルファーでありつつ不動産業を営む。
 
稲田 平=撮影 武田篤典=取材・文


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