渋カジ後期から1990年代中盤、みんなの腕元には決まってGショック。スピード、ジェイソン、マッドマン…… 個性に合わせて付けられるユニークな通称もブームを加速させた。
そのきっかけを作ったのが「DW-5900C」、通称“三つ目”である。それが、このたび忠実復刻。オーシャンズ世代は必ず手に取るべき1本の魅力を、『渋カジが、わたしを作った。』の著者・増田海治郎氏が解く。
1983年4月、初代Gショック(DW-5000C)が誕生した年に、フランシス・フォード・コッポラ監督の青春映画『アウトサイダー』が日本で公開された。
アメリカ・オクラホマ州を舞台に、貧困層と富裕層の若者グループの対立を描いた作品で、この映画を観た多感な東京の中高生は大きな刺激を受け、やがて同じようなアメカジに身を包み、グループで群れるようになる。
彼らの拠点は渋谷。
渋谷には当時からアメカジを供給するインポートショップなどがたくさんあったからだ。彼らのファッションはやがて、渋谷カジュアル=渋カジと呼ばれるようになる。
渋カジは頭のてっぺんから爪の先までアメリカにこだわったファッションで、当初は腕時計ですら国産が入り込む余地はなかった。
彼らの多くは海外の老舗ブランドのものを着けていた。高校生の分際で……と思うかもしれないが、時はバブル全盛期。親の財布はパンパンに膨らんでいたのである。
元祖・三つ目のGショックが解いた「いいもの=アメリカ」の呪縛
潮目が変わったのは1990年に入ってから。’90年の秋頃、紺ブレを主体としたアメリカ東海岸トラッドのキレカジ(=キレイめカジュアル)、ワイルドなバイカースタイルのハードアメカジに二分化した渋カジは、’91年の春頃になるとさまざまなスタイルに枝分かれする。
とくに勢力を増したのがスケーターで、カラフルなモックネックのボーダーカットソーにツータックのチノパン、ヴァンズのスニーカーを合わせた、キレカジとスケーターのミックススタイルが多く見られるようになった。大学入試に失敗して一浪し、池袋の予備校に通っていた私は、この年に初めてGショックと出合った。
キレカジ×スケーターミックスの最先端のスタイルに身を包んだ同級生が腕に巻いていたのが、元祖“三つ目”の「DW-5900C」だったのだ。
’90年にはまだ日本で発売されていなかったから、きっと海外旅行のお土産か、インポートショップで購入したのだろう。この頃の西海岸のクールなスケーターたちの腕にはGショックが巻かれていたという。
’92年に大学に入り、ラクロス部の門を叩いた。カッコいい先輩たちは、みんな手首にGショックを巻いていて、アメフト並にゴツいユニフォーム姿とGショックが、嫌みなくらいマッチしていて嫉妬した。
この年からラクロス部以外の場でもGショックを目にする機会が増えたと記憶している。今思えば「DW-5900C」が発売された’92年が、’96年以降の熱狂的なブームに続く「第一次Gショックブーム」の始まりだったといって差し支えないと思う。
オーシャンズ世代にとって、渋カジに夢中だった高校生の頃は“いいモノ=アメリカ製”だった。そんな呪縛をGショック、そして「DW-5900C」は解いてくれたのだ。価格やブランドにとらわれずカッコいいと思えるもの、欲しい機能が備わったものを選ぶという視点を、Gショックは養ってくれたのだと思う。
変わらない「DW-5900」が、変わった僕らに再びハマる
そして今年11月、’92年に発売され、第一次Gショックブームを牽引した「
DW-5900」が復刻発売された。基本スペックであるストップウォッチやタイマーはもちろん、トリコロールの文字配色にいたるまで、当時のデザインをほぼ完全に再現している。見た目に変わったのは、一部のベゼル表記とELバックライトに進化したことぐらいだ。当時を知る人なら涙モノである。
価格は1万1000円。その存在感と機能を考えたらこれまた涙モノで、手に入れやすさもあの頃と何も変わっていない。
高級時計は確かに素晴らしいけれど、上を見上げたらきりがない。第一次Gショックブーマーであるオーシャンズ世代だからこそ、ぜひ今一度、復刻された「
DW-5900」を手に取ってみてほしい。
青春時代が蘇る人も多くいるだろうし、流行りのアウトドアファッションにもピッタリだし、ドレスアップのハズしにも使えるし、奥さんの許可を取らずともおこずかいで気軽に買える。
あの頃、Gショックがあまりにも似合い過ぎていたラクロス部の先輩たちに気後れしてしまった私。久しぶりに対面した「
DW-5900」は、相変わらずキラキラしていて眩しかった。
真っ黒に日焼けしたラクロス部の先輩の顔を思い出した。
渋カジ世代はこれにも感涙必至! オールブラックで限定復刻した4モデル
左の「ジェイソン」など’90年代のGショックブームを知る人にはたまらない4モデルが真っ黒になって復刻! それぞれの個性はしっかり残しながらも、液晶部分までオールブラックで仕上げたシックな趣きがクールだ。しかも今しか手に入れられない限定感。こうしてコレクター心まで刺激するのだから、Gショックとはつくづく罪なヤツなのである。
文・増田海治郎雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て独立したフリーのファッションジャーナリスト。第一次Gショックブーマー世代の46歳。現在は東京だけでなくパリ、ミラノ、ピッティ・ウオモなど世界のコレクションを視察する。2017年には著書『渋カジが、わたしを作った。』を上梓するなど、同世代のファッションカルチャー史に精通する。
【問い合わせ】 カシオ計算機「DW-5900」https://products.g-shock. jp/_detail/DW-5900-1/「BBシリーズ」https://g-shock.jp/ products/color/bb/
玉井俊之=写真 荒木大輔=スタイリング TAKAI=ヘアメイク