待ち受ける険しい道のり。一筋縄ではいかないトルネード抽出の習得そんな圧巻のトルネード抽出だが、ミカフェートでもすべてのスタッフが身につけている技術ではない。一筋縄では習得できない理由がある。
「そもそもコーヒーは農作物です。品種や焙煎度合いはもちろんのこと、一粒一粒のコンディションも異なります。だからこそ私たちは、明確なレシピを決めません。豆の見た目や香り、その日の気候条件などを踏まえながら、最適な量や挽き具合、お湯の温度、抽出時間までを、過去のデータに基づいて分析し、一杯ごとに見極めていく。これができないと、トルネード抽出で美味しいコーヒーは淹れられません。形だけ真似てみても薄くてシャバシャバしたコーヒーになるだけです」。
まさに、訓練なくしては生まれない味。そのためミカフェートでは、コーヒーを抽出するバリスタを「エヴァンジェリスト(伝道師)」と呼び、14段階のランクに分けている。入社テストで満点を叩き出した期待のホープであるという中條さんは、現在「プレミアムコーヒーハンターマスター」という上から6番目のランクだ。見習いスタッフでは、ハイクラスのコーヒーに触れることすらできないという。
「トルネード抽出を完璧に習得するには、年単位の期間が必要です。豆の見極めから実際の技術まで、コーヒーに関する“すべて”を要求されますからね。私もミカフェートで使用している抽出器具一式を揃えて、自宅で毎日練習に明け暮れていました」。
なんとも険しい道のりだが、中條さんにとっては誇りを感じる瞬間だ。
「私はもともとコーヒーが好きで、コーヒーを仕事にするためにミカフェートの門を叩きました。それでも入社前は、やはりビジネスなので、コーヒーのクオリティもどこかで妥協を求められると思っていたんです。でも、いざ入社してみたら、求められるのは究極の味のみ。農園を選ぶことから輸送まで、すべての段階でこだわり抜いた豆を抽出できることに、誇りと喜びを感じています」。
決まったレシピに縛られなくていい。ご自宅コーヒーに「小さな改革」を
さて、あわよくばトルネード抽出を教えてもらいたいと思っていたが、どうやら見よう見まねで身につけるのは不可能と言えそうだ。ならば、自宅で取り入れられるちょっとした小技はないものだろうか。
「よくコーヒーのお湯は細く注ぐべし、と言うのですが、ポットのコントロールは難しく、どうしてもブレてしまいます。均一の量を注ぐように意識して抽出してください。そもそも良質な豆なら、太く注いでも苦みや雑味が出ることは無く、おいしく淹れられるものですよ」。
なるほど……。では、ゆくゆく中條さんのような熟練のコーヒー通に近づき、コーヒーの真髄を楽しむためには、どんな一歩を踏み出せばいいのか。
「レシピに縛られないのが大切です。豆の量を変えて、お湯の温度を変えて、抽出時間を変えてみる。あの手この手を使ってコーヒーを淹れるうちに、その豆に合った最高の一杯に出会えるのではないでしょうか」。
おいしいコーヒーの淹れ方は、マニュアルには収まらない。むろん定石はあるとしても、それに囚われすぎず、自分なりのハンドドリップを探してみる。コーヒーの奥深さを楽しむなら、その探求も醍醐味のひとつといえそうだ。
【取材協力】BARNEYS CAFE BY MI CAFETO PREMIER住所:東京都港区六本木7-7-7 バーニーズ ニューヨーク六本木店2F営業時間:月~木・日 11:00~20:00/金・土 11:00~20:30定休日:不定休ミカフェートがおすすめする、自宅でのクラシカルな「おいしいコーヒーの淹れ方」はこちら【問い合わせ先】バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター電話番号:0120-137-007 衣装提供=バーニーズ ニューヨーク
撮影=林 和也
取材・文=佐藤宇紘