職場の20代がわからない Vol.25
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同期から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。
「職場の20代がわからない」を最初から読む研修がご褒美だった時代
我々オッサン世代が若い頃、企業研修はご褒美のようなものであり、会社から派遣されて勉強をさせてもらえることは名誉なことでした。
私がいたリクルートでも、リクルートビジネスカレッジ(略称RBC)という企業内大学のようなものがあり、マッキンゼーの現役著名コンサルタントによるロジカルシンキング講座や、新進気鋭の経営学者などによるイノベーション創出ワークショップなどの講座がたくさん並び、それはそれは素晴らしいラインナップでした。第1回目の基調講演などは、かの大前研一さんにやってもらったものです。
普通に働いていては、なかなかお会いすることができないビジネス界のアイドルのような人と接点を持てるわけですから、参加社員のモチベーションも湧きます。そんな研修を「時間のムダ」というような人は当然ほとんどいませんでした。研修は希少価値の高いコンテンツだったのです。
コモディディ化した研修
ところが、直裁的に言ってしまうと、現在のビジネス研修の多くは標準化、パッケージ化されています。上述のように現役コンサルタントや経営学者が出てくるのではなく、「ふつうの」研修講師屋さんが、型ができあがったプログラムを粛々と伝達するというような形式のものがほとんどです。
確かに、ロジカルシンキングのいの一番に出てくる「MECE=Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(モレなくダブりなく)」みたいな概念は、今思えば、別に時間給の超高いマッキンゼーさんにやってもらう必要などなかったと思います。今では新入社員でも知っているようなものです。
つまり、普通の研修はもうコモディティ(一般化したため差別化が困難となった製品やサービス)化してしまっているのです。そんな研修に対して、受講者となる若者が「時間のムダ」と思うのは、極めて自然なことかもしれません。つまらないから「時間のムダ」と思うのです。
気軽に学べるチャネルの台頭
しかも、さらに、現代では学ぶチャネルがどんどん多様化しています。「Google先生」と呼ばれるように、知らないことがあれば検索すれば誰かが詳しく説明してくれています。
本屋に行かずとも瞬時に欲しい本が手に入るKindleなどの電子書籍もあれば、ニュースピックスやスマートニュースなどのニュースメディア、他にもデジタルメディアはどんどん質の高いものが出てきています。グロービスも「グロービス学び放題(グロ放題)」というスマホでも学べるサービスを提供しています。テッドでは、短い時間で感動的なスピーチが聞けます。ムークという無料で学べるオンライン大学講座までもあります。
このような、どんどん増えているオンライン上で気軽に学べるチャネルと比べて、リアルに実施されるふつうの研修はどんな競争力があるでしょうか。
そっくりさんが出てくるライブに価値があるか
研修の醍醐味はリアルであること自体だ、ライブ感だという人もいます。本を読んでいるだけで知識を得ることはできますが、リアルにインプットされるとインパクトが強くて記憶に定着するというのは確かに事実だと思います。ただし、費用対効果の問題です。
本は1冊で1000円から2000円。研修は、下手すると1日かけて数万円を支払うことになりますが、それだけの差があるのかということです。要は、費用に見合うインパクトがあるかどうかということなのですが、表題のような不満が出るということを考えれば、若者は「無い」と判断しているのでしょう。私もわかる気がします。
本を書いているのは「本物」です。著者という有力者、有名人です。SNSで直接コミュニケーションをとったりすることさえ可能です。ところが、(失礼な言い方で恐縮ですが)、研修というライブに出てくる人は、本人ではなく「そっくりさん」。リアルということのインパクトを踏まえても、下手すると「そっくりさんならDVDでいいや」と思う人がいても不思議ではありません。私も、ミスチルのDVDは見たいですが、ミスチルのそっくりさんのライブには行きたいとは思いません。
リアルの価値は、本物の価値
ちょっと古い話ですが、AKB48の成功は「会えるアイドル」というところにあったと聞きます。リアルに時間・空間を拘束されて、話を聞くからには、研修において出会える人は「本物」であるべきだと思います。もっと言えば、もはや研修である意味もなく、「本物に会える場を作る」だけで良いのではないでしょうか。知識インプットは新しい学習チャネルでも、もう十分です。
リアルの価値はインパクト、刺激だけと言っても過言ではありません。知識を学ぶということ以上に、本物にふれることによって、学ぼうというモチベーションが上がるきっかけとなることが、研修やリアルな接触の最も重要な機能であると思います。
やはり本物は違います。言語で形式知化されたものは、あえて悪く言えば、骨組みだけを抜き出したものであり、リアルで会えば、そこから漏れ出したものを感じることができます。そして実はそれが本質であり、秘訣であったりするのです。
また、「本当のことを知りたかったら、意見を聞くのではなく、見て盗め」と言われるように、本物は言葉ではなく、行動に真実を表すので、言っていることではく、やっていることをリアルに見ることが大事なのです。
「研修」は若者にとってオワコン、なのかもしれない
言い過ぎかもしれませんが、昭和から続くパッケージ的な研修はオワコン(終わったコンテンツ)なのかもしれません。
知識インプットも、刺激を受けることも、研修というパッケージ以外の方法のほうがもっと効果的なことがあります。せっかく有限な時間・空間を拘束して、若者を何かに放り込むのであれば。 もう少し慎重になってあげてください。それは一冊本を与えればいいのではないか、WEBで動画を見るほうが効率的なのではないか。どうせリアルに会うなら、形式ばった研修ではなく、イベントや懇親会などのほうが良いのではないか……と若者の貴重な時間を使うのであれば、そのぐらいの検討はしてあげてほしいと思います。
曽和利光=文株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。