ただくつろぐだけでも気持ち良い時間を過ごせ、サーフィンをした瞬間に人生は大きく変わってしまう。ひとつのシーンからそんな海の魅力を発見していくコラム。
今回は「River Mouth」
サーファーにとって台風の発生は朗報だ。力強く、サイズが大きく、シェイプも美しい波を届けてくれるためである。しかし近年の猛威を見るにつけ、恐れを抱くサーファーも多い。とはいえ夏の風物詩である極上波への思いは捨てられず、被災した人たちの安否を思いながら、「どうか波だけを届けてくれ」といった勝手な思いが、我らの心には浮かんでいる。
写真も、この夏のもの。台風によって生み出されたスペシャルな波が、某所の河口で姿を見せた1枚だ。注目したいのは、グリッと美しく巻いたチューブがライトとレフトに現れているものの、無人なことである。
河口の波はセンシティブで、いくつかの条件が重ならないと生まれない。まずは雨が川の砂を流すこと。その砂が沖に洲を形成し、そこに力強いスウェルが正しい方角からやってきて、初めて美しい波は現れる。その様子は生き物といえ、ナマ物だから賞味期限は短い。台風が発生する夏が終わるとともに、姿を消していくのだ。
強大な勢力の低気圧(=台風)によって発生する力強いうねり(=グランドスウェル)があって、河口にはパーフェクトな波が出現する。その波は、多くの雨を降らせる梅雨明けに訪れる日本の夏の風物詩で、海外のサーファーたちにも知られるほどの高いクオリティを誇る。過去には各地の河口の波を狙って撮影クルーが来日。海外サーフィン誌の表紙を飾ったことがあった。今年も自然のサイクルがもたらすニュースが、各地の河口から到着している。
ペドロ・ゴメス=写真 小山内 隆=編集・文