奇祭「バーニングマン」で学んだギフトの精神

「PARADISE BOOKS」を始める前に、下北沢のブックカフェ経営を友人数人で行った経験もある中野さん。ブックカフェ経営には歯がゆさも伴った。
「今、どこも本屋さんの経営が難しいというけど、身をもってそれを感じました。お店が専門書を重視したブックカフェだったこともあって、もっと本当に自分の好きな本を自由に楽しめる場所が作りたいと思いましたね」。
そこで2015年末に始めたのが「PARADISE BOOKS」だ。
「普段自分では読まないものを共有しあう、そんな読書環境を提供したいと思いました。街の中では目にとまらないものも、野外で読むとぐっときたりするんですよ」。
移動図書館では、中野さんの愛読書である写真集やアートなど、目で見て楽しむ書籍の数々、そして子供たちに喜んでもらえそうな絵本などを自由にセレクトできる喜びがあった。
「絵本って意外と大人が読んでも面白いし、懐かしさも相まってすごく喜ばれるんですよね。そういう表情を見られるのがうれしい」。
中野さんの「楽しい」を共有したいという精神は、20代のときに参加した、とある“フェス”の影響も大きい。
「20代後半のときに、ネバダ州で開催される、一週間、お金を一切使わずに砂漠で過ごすという“バーニングマン”に参加したんです。その一週間、世界中から集まった3万人以上の人々が、一つの街のような共同体として生活を送るんです」。
「PARADISE BOOKS」のWEBページにも、バーニングマンの写真が使われている。
「バーニングマン」の各参加者は、自らの手で設営したテントやキャンピングカーを家とし、友人を作り、コミュニティを形成する。電気や水道、ガスなどの生活基盤は整備されておらず、飲食店もない。圧倒的に不利な自然環境下では、自然と隣人の助けが必要となってくる。その上、貨幣経済や商行為も禁止されたバーニングマンの根底に流れるのは、見返りを求めない「ギフト」の精神だ。まったく見知らぬ人たちが一週間、ギブアンドギブの関係を構築したうえで、楽しく暮らす。それが心地良かった。
「こういう意識のある空間を作れたらいいなと。PARADISE BOOKSは、そんな思いでつくりました」。
平日は会社員、休日はPARADISE BOOKSの出店やブックセレクターとしての活動。多忙な日々を送る中野さんだが、「いまが1番バランスのいい生活を送れています」という。
「実は僕、20代・30代はずっとフリーで仕事していたので、会社員になったのはここ3年ぐらいの話なんです。フリー時代は自由ではあったけど365日、仕事のことが頭の片隅にあるような状態でした。会社員になってオンオフがはっきりしたからこそ、こうして休日に好きなことができるようになったんです」。
中野さんは30代後半で、「仕事」以外の軸を見つけられた。別に利益に繋がることじゃなくてもいい。自分が心地良いと感じる「PARADISE BOOKS」というチルアウトスペースを多くの人と共有する。そんなギフトの精神が、現在の生活の充足につながっているのだ。
藤野ゆり(清談社)=取材・文