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2018.10.04

ライフ

ジェイソン・ムラーズが語る「喜びに満ちた曲を書き続ける理由」

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。

「ミュージシャンである前に良い人間でありたいね」

1977年、米国バージニア州生まれ。南カリフォルニア在住。シンガーソングライター。2008年のシングル「アイム・ユアーズ」は全米チャート76週連続チャートインを記録。グラミー賞も2度受賞。近年は農業や環境保護活動に力を注ぐ。
一つひとつの質問に熟考し、ゆっくりと、丁寧に話す。誠実な人柄がインタビューの受け答えに滲み出す。4年ぶりの新作となるアルバム『ノウ。』をリリースしたジェイソン・ムラーズは、自身がポジティブなエネルギーに満ち溢れた曲を書き続ける理由を、こう語った。
「若い頃は『とにかく楽しませるから僕を見てよ!』という感じだったけれど、年を重ねるにつれて、どうやったら自分の伝えたいことがより良く伝わるのかな、と思うようになったんだ。僕の中にもシニカルな気持ちはあるけど、そんな感情は叩き潰すのさ。良い歌というのはリスナーの心に刺激を与えて、高揚させてあげるものだからね」。
確かに、喜びに満ちた彼の歌を聴くと、何げない日常が愛しく思え、心が自然と開き、気がつくと笑顔になっている。まるで童話のように、楽曲にはどれもいっぱいの優しさが詰まっているのだ。
「鳥の声や波の音は“聞いてくれよ!”と自ら主張はしないけど、人の心を癒やすよね。鳥のさえずりを聞いただけで気分が良くなることってあるでしょう? そういった自然界にある音のような音楽を作れたらいいなと、僕は考えているんだ」。
そして。そのナチュラルな作品を支えるのは、ナチュラルな暮らしだ。
「この4年で僕の人生には3つの大きな変化があったんだ。まず結婚したこと。妻と農業を始めたこと。そして精神を鍛えるためにヨガの学校に通い始めたこと。それらを通して充実している僕の生活が、音楽にも表れていると思うよ」。
愛する家族を得て、南カリフォルニアで自然に親しむ毎日を送る。特に農業への取り組みは本格的で、彼のファームで採れた自慢のアボカドは市場に出荷もしているほどだ。だが、今も昔も、最も彼の心を充実させるのは音楽を作ることなのだそう。
「自分は無力で価値がないなと落ち込んだとき、曲を書いて歌うと、何かを生み出すことができたという喜びで気持ちがアガるんだよね」。
そう語るポップミュージックの求道者も40代を迎え、新たな人生の段階に入った。格好良いと思える男性像も変わった。
「パートナーを愛し、良き夫、良き父である人。自分の環境を大切にしながら暮らし、コミュニティの良き一員であろうと努力している人。そういう人を尊敬しているし、僕自身もそうありたいと思っているよ」と、利他的な心を持つ成熟した男性が格好良いという。
心に響く歌は、まさに地に足のついた生活から生まれる。「ミュージシャンである前に良い人間でありたいからね」といって浮かべた笑顔は、惚れ惚れするほどに輝いていた。
『ノウ。』

ジェイソン・ムラーズ/ワーナー/2457円
4年ぶり6作目となるアルバムは全編ラブソングで構成。最愛の妻クリスティーナに捧げた曲たちも交え、多幸感溢れる1枚となった。ポジティブでソウルフルなメッセージが甘く瑞々しいボーカルとサウンドで紡がれる彼の魅力が詰まったこの作品には、世界中で大ヒットした先行シングル「ハヴ・イット・オール」も収録。
PAK OK SUN(CUBE)=写真 美馬亜貴子=取材・文


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