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地域を理解し、その場の魅力を再生させるためのアートへ

そんな戸井田氏が、なぜ熱海の「街おこし」に積極的にかかわるようになったのだろうか。
「自分が手掛けているのは、絵画や彫刻のように創ったものを持って行って展示するのではなく、その場でしかできないものを、直接現地に創り上げるタイプの作品なんですね。ですから作品を創るためには、まず制作する場に入り込み、その場がもつ魅力を理解し、そこからインスピレーションを得る必要があるわけで」。

そうした作品制作のための“取材”が、実は熱海の街おこしでも行われていることを知ったのだという。
「熱海の街おこしをしている人々と接して、自分と同じことをしているんだなって。そのアウトプットがアート作品なのか、リノベーションなのかっていう違いだけだと感じたんですよ。自分が違和感を覚えていたのは、スクラップ&ビルド型の街おこしだったんですね」。
 

暮らしとアートの間にある“隔たり”を壊すような試みを

ダイナミックに作り変えてしまう街おこしから、その街本来の魅力を活かし再生させる街おこしへ。熱海で行われている街のリノベーション運動は、戸井田氏の街おこしに対する意識だけでなく、アートとのかかわり方も大きく変えた。
「それまでは、アートを独立した存在と考えがちだったんですが、もっと緩やかに、人の暮らしとかかわるような在り方もあっていいんじゃないかって。現在『海辺のあたみマルシェ』の事務局長を務めているのも、そうした意識の変化から。アートだけでなく、クラフトや食器のような領域までを区別なく扱っていくことで、人とアートとの距離を近づけることができるのでは、と考えているんです」。

確かに、暮らしを豊かにする存在という点で言えば、食器や雑貨、そしてアートとの間に境界はない。「素敵な食器で食べたほうがおいしい」という感覚から「日常にアートがあれば楽しい」という感覚へのグラデーションを、マルシェを通じて提供したいというのが、戸井田氏の狙いでもある。
「一方で、熱海の街に、作家が“食える”場を創りたいという目標もあって。ギャラリーが主導となる既存の商流も大事ですが、作家が直接マルシェのような場で作品を売ったり、ホテルや旅館などと作品の売買ができるようなしくみが構築できれば、アート・シーン全体の活性化につながるかもしれない」。

そうした構想の一環として、現在戸井田氏は熱海の地で2020年の開催を目指す、一大アートフェアのプロジェクトを立ち上げたところ。地元の協力も得つつ、アーティストとともに勉強会も定期的に行いはじめるという。
直近の動きとしては、著名講師陣を招きアートイベントの運営や街おこしについて考える合宿型イベント「ARTS PROJECT SCHOOL@ATAMI」を、11月23・24・25日に開催。同日には、兼ねてから計画していたシェア・アトリエ「Nagisa-Ura」のオープンも予定されているとのこと。
ARTS PROJECT SCHOOL@熱海は、11月に泊まり込みの合宿形式でアートプロジェクトの実践的な学びが体験できる。写真は熱海での過去のスクールプロジェクト
より気軽に、熱海とアートのコラボレーションを体験したければ、2カ月に1度開催される「海辺のあたみマルシェ」もオススメだ。

戸井田氏と熱海との出会いにより、リノベーションされた「街おこし×アート」の在り方。いわゆる「アート」に興味が持てなかった人も、熱海の街で起こっている動きに触れてみれば、アートをより身近に感じ、愉しむことができるようになるのではないだろうか。
 
小島マサヒロ=撮影 石井敏郎=取材・文


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