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2018.08.14

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太宰作品を伊藤潤二の恐怖テイストでどうぞ。マンガ『人間失格』

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昭和の文豪・太宰 治。『走れメロス』『斜陽』などと並び立つ名作が、『人間失格』である。隣人の気持ちを理解することができず、だからといって距離を取ることもできない男・葉蔵(ようぞう)を主人公に、「人間失格」の烙印を押されてしまうその破滅的な生涯を綴った純文学だ。
日本人ならばタイトルくらいは耳にしたことがある名作。昭和期の純文学という敷居の高さに尻込みして、いまだ読んだことがないという人も少なくないのではないかと思う。そんな人たちにうってつけなのが、ホラーマンガ家・伊藤潤二氏のコミカライズ版『人間失格』(小学館)だ。
ホラーマンガ家・伊藤潤二氏のコミカライズ版『人間失格』(小学館)
伊藤氏はこれまでに『富江』シリーズや『うずまき』などで狂気的な世界を描き、多くのファンを獲得してきた。流麗な筆致で見るものを魅了する一方、グロテスクな描写でキッチリ震え上がらせる。そんな伊藤氏が、ホラーマンガ家ならではの観点で新たな解釈を加え描く『人間失格』は、発表と同時に大きな話題を集めた。
その内容は至って原作に忠実だ。怪異や化物のたぐいは登場せず、葉蔵の幼少期から青年期までを丁寧に追いかけている。しかしそれでもなお、ホラーのテイストを違和感なく盛り込む技量はさすがのひと言。
葉蔵を犯すために近づいてくる使用人たちはさながら妖怪のようであり、葉蔵の本質を見抜く同級生・竹一も不気味で陰惨な幽霊のようだ。人間なのに、人間に見えない。人間の醜悪さを徹底的に描いた原作を、圧倒的なビジュアルの力をもって一流のホラー作品に昇華させているのだ。
そして何より、最も醜いのは葉蔵自身。うまく生きられないがゆえに、周囲の人間を傷つけ、不幸にしてしまう。そんな“人間失格”的な生き方をするひとりの男の人生は、どんなホラーよりも恐ろしく、哀しいものだ。
夏と言えば、ホラーの季節。原作を読んでいない人にこそ、不朽の名作をホラーテイストに仕上げた本作を読んでもらいたい。読みやすいうえ、背筋が凍るおまけつきだ。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。



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