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1960年代にはジャズバンドのメンバーが毎晩訪れていた


ジャズレコードのコレクションは、もともとママさんの趣味だった。
「純喫茶からジャズ喫茶に名前を変えたのが1966年。そのとき、すでにレコードは2000枚ありました。今は整理してあるものだけでも3500枚はあるんじゃないでしょうか」(息子さん)。
そのレコードのコレクションには、オーシャンズ世代が懐かしいLP盤だけではなく、SP(直径12インチの初期のレコード)、EP(45回転の7インチ・シングルレコード)なども含まれる。今では貴重となった原盤も多いそうだ。

ママさんは戦後、東京から熱海を訪れた際、温泉が気に入ってこの地に居着いてしまったのだという。
熱海が観光地として隆盛を極めたのは、東海道本線の開通後、1950年代から1960年代にかけてのこと。新婚旅行の人気スポットとなり、熱海のホテルでは当時、ジャズバンドが生演奏を披露していた。そのバンドマンたちが仕事を終えたあとに訪れたのが、ここ「ジャズ喫茶ゆしま」だった。

ジャズバンドのメンバーたちがカウンターに陣取り、店内には彼らの楽器がところ狭しと置かれている。そんな様子が描かれた絵画も店に飾られている。
当時のママさんは、きっと若くて美人で、彼女を目当てに通うバンドマンも多かったに違いない。仕事を終えたバンドマンは、音楽に負けないぐらい声を張り上げて音楽論議に花を咲かせ、コーヒーや酒の入ったグラスを傾ける。その中心で、ママさんは今と変わらない笑みをたたえていたのではないだろうか。
店で流すナンバーは、訪れたお客さんを見て変えているそう。もちろん、リクエストだって可能だ。ジャズとコーヒー。正直いってジャズにはそれほど詳しくないけれど、これほどコーヒーに合う音楽もほかにないと思えてくる。


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