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運命の悪戯

再び舞い込んだチャンス。それは、1年間転移の恐怖と戦いながらも、目に見える結果を残すという決意でサッカーに取り組んで来た宇留野へのご褒美でもあった。
だが、ここでも宇留野には、大きな試練が与えられる。非情にも、月2度の腫瘍マーカーの数値が2回連続で上昇し、ガンが転移した可能性が高いことを担当医から告げられたのだ。治療には短くて半年、長ければ1年の入院が必要ということだった。とうとう運命の日が来てしまったことを悟った宇留野は、このときFC東京のコーチをつとめていた恩師の長澤徹に、電話で転移の報告をした。
「徹さんに電話したら、翌朝に、FC東京の練習を休んで、わざわざ新幹線に乗って浜松まで会いに来てくれて、そこで転移の報告をしました。転移したらサッカーを辞めるという覚悟で1年間頑張ってきたことを伝えると、“治療が終わったら、一緒にゆっくりドイツワールドカップを観よう”って言ってくれて。そのとき、なんか肩の荷が下りたような気がして、吹っ切れたんです」。
こうして運命を受け入れ、精神的な重荷から解放された宇留野だが、この直後、念のためチームのドクターが予約してくれたセカンドオピニオンを利用して、国立がんセンターの専門医の意見を聞くと、再び宇留野の運命は覆る。まだ転移と決めつけるのは早いというのだ。宇留野の未来に一気に光が射し込んだ。
「まだこの数値では転移したとは言い切れないから、もう少し様子を見てからでも遅くはないって言われたんです。すぐにオファーをくれたヴァンフォーレ甲府に、自分の病気のこともちゃんと話をして、それでも獲得してくれることになりました。その年の開幕戦をスターティングメンバーとして入場したときは、それまでお世話になった人のことや病のことなど、いろんなことが頭の中をよぎって涙が止まりませんでした」。
運命に翻弄されながら、やっと辿り着いたJリーガーになるという夢。そして、自らの努力で掴んだJリーグの開幕戦という夢舞台。そこで、言葉に出来ない想いが自然と溢れ出した。



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