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塾選びの段階で侃々諤々の議論を

子供の中学受験勉強がスムーズに進んでいるときはいいが、成績が下がり始めたときが夫婦のコミュニケーションの危機だ。夫婦がお互いに不信感を抱けば、「家族一丸」ではなくなる。子供の成績のせい(子供のせいではない!)で家庭内は殺伐とし、ますます子供の成績に悪影響を与える。
最悪なのは、夫婦がお互いへの不満のはけ口として、子供を利用してしまうケースだ。「こんな勉強の仕方をしているから成績が落ちるんだ!」と、妻に聞こえるように子供を怒鳴りつつ、その真意は「こんな勉強の仕方をさせているオマエ(妻)が悪い」であったりする。
大切な子供のことである。お互いに譲れない部分がある。子供との距離感が夫婦で違うのも、本来悪いことではない。距離感が違うからこそ、見えるものが違う。妻には見えないものが夫に見えたり、夫に見えないものが妻には見えたりする。それぞれに見えるものを共有すれば、バランスの取れた子育てがしやすくなる。「子供がちゃんと育ってくれればいい」という、解釈の余地がある長期的な目標に対しては、ときには夫婦で意見をぶつけ合いながら、焦らずにやっていけばいい。
しかし中学受験は明確に期限の決められたイベントである。結果もわかりやすい。だから夫婦の意見の相違も露呈しやすい。
志望校をどこにするか、第1志望はダメだったとしてもどの程度の難易度の学校なら納得できるのか、たとえクラスが下がっても難関校に強い塾にこだわるのか、身の丈に合った塾への転塾も検討するのか、本人が自力で頑張れる範囲で良しとするのか、お尻を叩いてでも実力よりも上を目指させるのか、習い事や家族との時間をどこまで犠牲にするのか、中学受験を途中でやめるという選択も視野に入れておくのか……。
中学受験において、夫婦の意見の違いが顕著になった場合のもっとも合理的な解決策は、大概の場合、塾の先生に相談することである。夫婦双方の意見をとりまとめたうえで、塾の先生に相談し、プロとしてのアドバイスをもらい、それにはお互いに文句を言わないと決めておく。
そのためには前提として、夫婦そろって信頼できる塾の存在が不可欠だ。塾選びの段階で侃々諤々の議論をして、夫婦の中学受験観を徹底的にすり合わせておけば、あとが楽。塾はそういう観点で選ぶといい。
子供の成績がスムーズに伸びていくということはなかなか稀である。ならばせめて、夫婦のコミュニケーションはスムーズにいくように、早めに地ならしをしておきたいものだ。
 
おおたとしまさ
「子供が“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子供と一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。中学受験を親子にとっていい経験にする方法、子育て夫婦のパートナーシップ、男性の育児・教育、無駄に叱らない子育てなどについて、執筆・講演を行う傍ら、新聞・雑誌へのコメント掲載、メディア出演にも対応している。著書は 『ルポ塾歴社会』、『追いつめる親』、『名門校とは何か?』など50冊以上。近著は『開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす』 (祥伝社新書)



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