気づいたら、「兼業主夫」に。家庭にはふたりの兼業主婦(夫)がいる
そうして手に入れた新しい生活。妻より坪井さんのほうが家にいる時間が長くなり、自然と家事・育児を行うことが増えていった。そうなる前の子供との関わりは遊ぶことのみ。育児の「いいとこどり」だったと坪井さんは振り返る。
以降、坪井さんの生活は、ふたりの娘の保育園の送り迎えに始まり、料理に洗濯、掃除と、家事・育児が中心となるスタイルに大きく変わった。
「妻が仕事から帰宅して料理するのを待つより、僕があらかじめ支度をしておいたほうが、子供も早く寝られるし、遊ぶ時間だって増える。家族にとって一番過ごしやすい形を考えた結果、それが習慣化された感じです。だから、人から『主夫だよね』と言われ、そこでようやく『そうか、俺って主夫なんだ!』と気づいたくらいです(笑)」。
妻も主婦業は好きで、やりたい派。「専業主夫にはならないでね」と釘も刺されている。だから、家の中にはふたりの兼業主夫(婦)がいる。そんな今の状態に落ち着いた。
ママたちの輪に自ら積極的に加わり「マパ友」に
仕事が軌道に乗ると、自然と家族と過ごす時間が増え、地域や学校の活動にも進んで参加するようになった。
多くの父親にとって、母親が中心となっている保育園や小学校の活動はなかなか関わりにくいに違いない。しかし、坪井さんはそんなコミュニティにも臆せずに入っていく。
「図々しいくらいにママさんたちの中に加わっています。性差はあるものの、ママたちの悩みや話していることはすごく理解できるので。子供を送り出すまでの朝の10分がいかに大きいかっていう話とか(笑)」。
今では、ママ友とパパ友の両方を兼ね備えているという意味で、坪井さんのことを「マパ友」と呼ぶ母親もいるそうだ。
兼業主夫として充実した毎日を送る坪井さんだが、満足はしていない。「まだまだやりたいことがたくさんある」と少年のように語る。
「兼業主夫になったことで、むしろ可能性が広がった気がします。がむしゃらに働いていた30代半ばのころは、日々を過ごすことに必死で、先のことや自分のやりたいことを考える余裕はありませんでした。でも、子育てを通じて自分の世界も世の中の見え方も変わった。僕には今、何もないけれど、またゼロからなんでもやりたいなと思えるんです。周りにどう思われても、自分と家族の幸せを大切にしたいですね」。
一番の喜びは、娘の小さな変化や成長に気づけるようになったこと。以前はわからなかった体調を崩す予兆や、コロコロと変わる表情の意味も今なら手に取るように理解できる。
兼業主夫になったことへの後悔はひとつもない。「カレーを作っておいたので、今夜の家事は楽なんです」。娘たちの待つ家に帰る坪井さんの足取りは軽やかだった。
藤野ゆり(清談社)=取材・文