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2018.05.06

かぞく

壁は親子で乗り越える! ボルダリングで深まった“父と娘”の絆


O父CHANSとレジャー【ボルダリング編】 Vol.1
ここ数年、流行りに流行っているボルダリング。挑戦してみたい、というオトーチャンは多いはずだが、それなら親子一緒に始めてみてはいかが? 自分の体重を支えながら登るボルダリングは、親子揃って夢中になれるスポーツなのだ。まずはボルダー親子へのインタビューでその魅力をお伝えしよう!
傾斜のきつい壁と、散りばめられたカラフルな“ホールド”。手に滑り止めのチョークをまぶし、指とつま先を引っ掛けて、よじ登っていく。数年前からブームに火がついたボルダリングの風景だ。
そんな中、ひときわ笑顔の眩しいボルダー親子がいた。父の江口 禅さん(43歳)と娘の舞香ちゃん(9歳)。毎週のように父と娘ふたりでボルダリングに励む江口さんたちに、その魅力を聞いてみた。

リベンジに燃える娘と、受けて立つ父。親子でやるから、より楽しい

禅さん「最初は本当にヘタクソでしたよ。でも、誰でも続ければ上手くなるのが、ボルダリングのいいところ。僕らも簡単なコースしかできなかったけど、徐々にコツを掴みました」。
すっかり体が出来上がっている禅さんだが、舞香ちゃんには「前はフニャフニャだったのに」と冷やかされる。江口さん親子のボルダリング歴は2年。始めてすぐにどハマりし、舞香ちゃんはいまや「コンペ」と呼ばれる大会にも出場する。
禅さん「ボルダリングは、親子でコミュニケーションを取りながら楽しめるんです。どうしたらゴールに辿り着けるか、『ここは先に手を出せば?』『あのホールドにはこう足を伸ばしたら?』と相談し合えますから」。
ボルダリングでは、すべてのホールドを足場にしていいわけではない。課題はホールドの色で分かれており、指定された色のみを使いゴールを目指す。クリアするためには、事前にホールドの位置を観察し、どんな動きで登るべきかパズルのように計画を立てる必要がある。江口さん親子は、ふたりで相談し合いながら答えを導き出すという。

一方で、舞香ちゃんの楽しみは他にもあるらしい。禅さんに対し、「コンニャローって思います」といたずらっぽく笑う。
舞香ちゃん「わたしが先に始めたのに、今ではパパのほうが上手いんです。悔しいから勉強して、何をしたらいいかもわかってきたんですけど、それをパパも感じてるから、負けないように練習していて。コンニャローって思いますけど……もうすぐ追い抜かします!」。
リベンジに燃える舞香ちゃんと、受けて立つ禅さん。こうして親子で競い合えるのも、ボルダリングの魅力のようだ。

ボルダリングで鍛えられる、子供がひとりで考え抜く力

また、知育スポーツとしても注目を集めるボルダリングは、子供の思考力アップに繋がると言われている。本当だろうか。
禅さん「本当ですよ。難しい課題(=コース)になればなるほど、簡単に取れるホールドがなくなるので、自ずと分析力は身につきます。ただ、それ以上に磨かれるのは、課題にひとりで向き合う力です」。
ただの思考力ではなく、自主的に考える能力。禅さんは、舞香ちゃんにアドバイスを与えすぎないように心がけている。
禅さん「子供にああしろ、こうしろと指示する親も見かけますよ。でも、大会に出場したら、隣に親はいない。ひとりなんです」。

大会に出るときのことを、舞香ちゃんは「ぞくっとする」と話す。なかでも課題に複数人で取り掛かる「セッション方式」の場合、クリアした選手は次の課題に移るため、取り残されるような焦りに駆られる。
禅さん「ボルダリングをやらせてよかったのは、緊張感を知ってくれたこと。これからの人生、緊張する場面って何度もあるじゃないですか。緊張感を楽しめるような感覚を、今から養えていると思いますね」。
 

苦い経験を糧に。成長を目の当たりにした“親目線”でのボルダリング

こうした緊張感を手懐けられず、苦い経験をすることもあった。国内最大級の大会のひとつ、「THE NORTH FACE CUP」でのエピソードだ。苦手意識のあるスラブ(90度以下の反り返った壁)の課題を避けたことが災いし、友達に僅差で負けてしまう。
舞香ちゃんは、小学4年生らしからぬ明朗さで「気持ちで負けてました」と振り返った。
舞香ちゃん「ボルダリングで大事なのは、気持ち。パパにも毎回そう言われます。壁を登る人は、ただ登るだけじゃないんです。すごく強い選手でも、油断したら落っこちちゃう」。
父から娘へと、その信念は受け継がれている。その後、4月に行われた小学校4年生から中学校2年生までが出場する「第4回スポーツクライミング東京都選手権大会」では、気持ちで負けない姿を見せつけた。
舞香ちゃん「スラブのボーナスポイントが高かったので、思い切ってチャレンジしてみたんです。そしたら、ホールドにさわることはできた。さわってる時間が足りなくて判定は失敗でしたけど、悔しさのなかにも何かひとつ、前に進めた気がしました」。

中学生の選手も含めた試合のため、最終的な順位こそ振るわなかった。だが、禅さんは「順位ではない」と言い切る。
禅さん「成績は良くなくても、その日は一生懸命、自分の落とせそうな課題を考えながらやっていました。最後は大泣きしていたけど、一歩成長できたかなって。この子にとってクライミング人生は長いんですよね。今やっていることは経験なので、試合から何かを持ち帰ってくれたらいいんです」。
過去に出場した大会の写真も見せてくれた。
別人のように凛とした表情だ。
子供の成長を目の当たりにできるのも、きっと“親目線”でのボルダリングの楽しさだ。禅さんは、成長にハッとする瞬間は大会だけではないという。
禅さん「ボルダリングでは、自分たちでホールドを組み合わせて、オリジナルの課題も作れます。僕はいつも、舞香の手足の長さとかを考えながら、ゴールできるかスレスレのコースにするんですよ(笑)。でも、時にはあっさりクリアされる。自分の想像を超えてくる瞬間があります」。
江口さん親子を見ていると、厳しくも温かい父の姿と、年齢以上に大人びた舞香ちゃんの姿に驚かされる。ボルダリングは、親子の絆を深めてくれる最高のコミュニケーションだ。
 
佐藤宇紘=取材・文 澤田聖司=撮影

【取材協力】
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