売り出し価格は安くとも、管理費と修繕積立金の設定が高い場合も
また、少し特殊なケースかもしれないが、単なる個人の事情ではなく中古が「破格に見える」値付けがなされることもある。筆者が過去に見つけた売り住戸の例で言えば、バブル期に建てられた新築時は優に億ションだったマンションの100㎡超の住戸が、なんと2000万円台で売り出されていたことがある。築20年以上経過していたが、元は億ションなだけに立地に問題がある訳ではなく、建物としてもグレード感の高い物件だ。正直、ゼロひとつ間違えているのではないかと思ったが、表示価格に間違いはなかったのだ。当然、即座に売り切れるかと思いきや、2~3週間程度は情報サイトに掲載され続けていたと記憶している。
なぜ、この一見破格の元億ションが、即売約済みにならなかったのか。理由は、管理費と修繕積立金だ。その住戸には、両費用を合わせて毎月15万円近い管理費と修繕積立金が設定されていたのだ。毎月15万円の支払いを住宅ローンの返済に換算すると、金利1%、35年返済なら約5300万円を借りられる計算になる。つまり、マンションの価格は2000万円台でも、管理費・修繕積立金の負担を考えると、7000万円以上のローンを組むようなものだったのだ。
さすがに7000万円以上の住宅ローンを組むのと同レベルの支払い負担ができる人は、そう簡単には現れないことは容易に推察できる。売主としては、住宅のグレードで言えばもっと高い売値を設定したかっただろうが、それでは買い手がつかないという苦渋の決断を迫られたのだろう。このケースからは、管理費や修繕積立金が高くなると売却時に不利に働いて、資産価値を落としてしまう要因になることがわかる。
上記は極端な例ではあるが、築年数が進んだ面積が広めの中古マンションでは、管理費と修繕積立金を合わせて5万円前後になる物件は珍しくない。新築マンションの場合は、両費用の初期設定の合計が平均2万円台なので、その差を3万円として住宅ローンの借入額に換算すると1000万円以上に相当(試算条件は上記同様)する。そう考えると、新築との価格差がそれ以上ないと、「安いから中古を選ぶ」という合理性がなくなってしまう。
安さを理由に中古マンションを探すなら、「掘り出し物」を見つける根気強さはあったほうがいい。その一方で、表示価格の安さが額面通りにお得なのか、「安く見える」だけで実は安くないのか、冷静に見極める目も持っておこう。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。